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August 28, 2005

「六ヵ国協議」再開…か。

■ 時節柄、国内政治絡みのエントリーが続いているけれども、国際政治は動いている。休止中の「六ヵ国協議」は今週後半にも再開される模様である。一昨日、『時事』と『読売』は、次のように伝えている。

  □ 6カ国協議、再開日程は調整中=近く発表の見通し-米国務省
 【ワシントン25日時事】米国務省のマコーマック報道官は25日の記者会見で、6カ国協議の議長を務める中国の武大偉外務次官が、9月2日に同協議を再開する考えを示したことについて、日程は調整中であり確定には至っていないと述べた。国務省高官も、9月2日の再開案は選択肢の1つだと語った。
 同報道官は、中国が25日に北朝鮮側と協議を行っており、近日中に再開期日が発表される見込みだと指摘。ニューヨークで行われた北朝鮮との協議でも、来週の再開を否定する発言は聞いていないと述べた。 

  □ 6か国協議、北の核廃棄約束が「前提」…日米確認
 【ワシントン=貞広貴志】北朝鮮の核問題を巡る6か国協議で日本の首席代表を務める佐々江賢一郎・外務省アジア大洋州局長は25日、米国務省で米首席代表のクリストファー・ヒル国務次官補と会談した。
 会談で双方は、再開後の協議では「北朝鮮の核兵器、核計画の全面廃棄」をあくまで求め、北朝鮮が明確な約束をすることを、核の平和利用などを取り上げる「前提」とする方針を確認した。
 協議再開の日程については、予定通り来週開催を目指すことを確認した。ただ、外交筋は、関係国間の調整が続いていることを挙げ、「来週前半はなくなった」との見方を示した。

 記事中、注目に値するのは、日米両国政府が「北朝鮮の核兵器・核計画の断念確約を平和利用云々の議論の前提とする」ことを確認したという件であろう。
 北朝鮮の「核廃棄」の範囲には、関係各国の間で微妙な差がある。「平和利用は認めても…」というのが、韓国政府の立場であるけれども、「そんなことよりも、核兵器・核計画を、、きちんとあきらめるのが先だ。平和利用の話はそれからだ」というのは、日米両国政府の立場である。そして、「平和利用云々の話が始まっても、平和利用それ自体も認めない」というのが、日本政府の姿勢である。「核」に限定しても、客観的には、関係各国の中でも最も厳しい対朝姿勢を示しているのが、日本なのである。
 下掲の原稿は、今月上旬に書いたものである。過日のエントリーで書いたものを「新聞原稿」として書き改めたものである。こうした雪斎の立論は、拉致被害者救出運動に携わっている人々には、誠に評判の宜しくないものであるらしい。ただし、雪斎は、現時点では、この原稿で示したものが基本線であると考えている。拉致被害者救出運動関係の掲示板では、この論稿は、「小泉総理も同じ考えなのか」とか「外務省の大勢の意見を代弁しているのか」と評されたようであるけれども、「外務大臣になったつもりで物事を考える」という福澤諭吉以来の外交評論の作法を踏まえれば、この論稿から大きく逸れた議論は、出て来ようがないのではなかろうか。
 雪斎は、北朝鮮に絡む問題を落着させる「当面の期限」は、おそらくは2006年中、遅くとも2007年前半なのではないかと思っている。
 2008年、中国・北京でオリンピックが開催され、米国では大統領選挙が行われる。米国も中国も、北朝鮮情勢をどのように落着させるにせよ、「2008年」にできるだけ影響を及ぼさない形での落着を望むであろう。中国政府にとっては、オリンピックの成功は至上命題であろうし、ジョージ・W・ブッシュも後継候補に負担を残すようなことはしないはずである。イラク情勢を片付けることができていない現実を脇に置いたとしても、米国政府にとっては、北朝鮮情勢対応は、決して大きな「得点」を稼げる案件ではないからである。

□ 6ヵ国協議一時休止に思う;
 北朝鮮核開発に絡む「六ヵ国協議」は、七月下旬以降の論議にもかかわらず、「朝鮮半島非核化」の具体像についての合意が得られないまま、八月末までの休会に入った。
 この「六ヵ国協議」が我が国にとって相当に条件の悪い協議になるというのは、事前に予測されていたことである。我が国国内には、協議における「実質的な進展」を政府に要求する向きがあったけれども、何を以て「進展」と観るかでは関係各国では相当な温度差があった。米韓中露四ヵ国は、「核さえ解決すれば…」と考えていたに違いないけれども、我が国政府の方針は、「核、ミサイル、拉致を包括的に解決する」であった。我が国の「核も拉致も」戦略は、他の国々の「核だけ」戦略に比べれば、明らかに高いハードルを自らに対して設定していたのである。実際、宋旻淳(韓国首席代表、外交通商次官補)は、「拉致を議題として扱わない」と言明したけれども、細田博之(官房長官}は、拉致を議題として提起する意向を示していた。我が国にとっては、対「六ヵ国協議」戦略における「敵」は、北朝鮮というよりは、このような関係諸国との「認識の差」に他ならなかった。
 「戦略の本質は、手段の限界に見合った水準に、その目標の次元を下げることである」。永井陽之助(政治学者)は、このような「戦略」の定義を示したことがある。この定義に従えば、「核も拉致も」という我が国の対「六ヵ国協議」戦略が、我が国の持つ「手段」に照らし合わせて、理に適ったものであるかは、甚だ疑問である。「核も拉致も」という「二重目標」を追求するにしても、そのための手段は、具体的には何であろうか。我が国の立場に同情的な米国ですら、「拉致」の側面で対朝圧力を強めようとしているわけではない。我が国単独での経済制裁は、我が国国内にある期待と裏腹に、かなり効果の薄いものでしかない。我が国の「核も拉致も」戦略は、拉致に絡む国内世論の厳しさを反映しているけれども、それを追求するには、手段が伴っていないのではないか。
 筆者は、「六ヵ国協議」に際する限りは、「核だけ」という次元に目標を下げるべきなのではないかと考えている。「核だけ」という目標であれば北朝鮮以外の関係五ヵ国が足並みを揃えることは容易であるし、実際、此度の「六ヵ国協議」が一時休止した所以は、この五ヵ国を同意した案を北朝鮮が受け容れなかったことにあるのである。「六ヵ国協議」での対朝説得が不調に終われば、国連安保理付託という段階に粛々と移ればよい。ジョージ・W・ブッシュ〈米国大統領〉の対イラク政策を批判した米国の知識層の中にも、「諸国の協調が図られた上でならば、北朝鮮の建設中、稼動中の核施設に限定的な武力行使に踏み切ることも排除されない」という趣旨の見解を示す向きがある。要は、対朝包囲網の形成のために、どのように確実性を担保するかということなのである。    
 拉致に絡む事柄は、日朝国交正常化交渉の折に本腰を入れて取り組むのがよろしい。「拉致」が解決されない限り、日朝国交正常化はないし、その結果としての対朝援助の実施もない。これが我が国の対朝政策の原則であり、我が国は、その原則を守り続けることが大事である。ただし、こうした「核だけ」戦略は、当面の間であっても「拉致棚上げ」を意味するが故に、拉致問題に絡む国民感情からすれば、明らかに受け容れ難いものであるのは間違いないであろう。それは、おそらくは、戦前期に「満州放棄」を唱えるのと同じくらい受け容れがたいものであるかもしれない。しかし、「六ヵ国協議」に際して、我が国の拉致の提起には冷ややかな眼差ししか向けられなかったという現実は、冷静に評価すべきであろう。我が国にとっても、「場の雰囲気」を壊すような対応は、愚策なのである。
 目下、我が国は、選挙の時節を突然に迎えたが故に、諸々の対外政策案件に対してアクティブな政策判断を行う用意を失っている。「六ヵ国協議」の一時休止は、そうした我が国の事情を前にすれば、誠に幸運なものであると呼ぶ他はない。ただし、八月末、仕切り直しの後の「六ヵ国協議」は、事態の落着か国連安保理付託かの方向性を煮詰めるものになるであろう。そして、九月十一日投票の総選挙の結果として登場する内閣は、真っ先に「六ヵ国協議」の結果を受けた対応を手掛けることになるであろう。筆者は、「核だけ」戦略によって具体的な成果を見込めるのであれば、それを優先すべきであろうと思う。多くの場合、物事が一気に進むということはないのである。
       『世界日報』(2005年8月11日)掲載

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「国際情勢」カテゴリの記事

Comments

北朝鮮の立場から言えば、六カ国協議の結果により大手を振って南鮮
から絞りとれる様になりますから、
拉致問題の解決も平壌宣言も「ゴミ」となります。

別段、金政権は「北朝鮮人民の生活を何とかしたい」とは考えていません。
体制維持に必要な資源さえ入手できれば万々歳なのです。

拉致について後から交渉するというアイデアはナイーブ過ぎます。
六カ国協議のちゃぶ台なんざぁ、ひっくり返せば良いのです。

Posted by: ペパロニ | August 28, 2005 at 01:33 PM

難しいですなぁ。平壌宣言をアメリカが押し込んで
くれれば問題解決なんですがねぇ。人権がらみで
なんとかならないですかねぇ?

Posted by: おおみや%NEET | August 28, 2005 at 05:52 PM

確かに、現在拉致問題を取り上げるのは不利ですね。しかしながら、拉致問題を完全に取り下げてしまうのはどうかと思われます。
拉致問題は、明らかに人権問題でありますし、「人権」という言葉に、国際社会が敏感になりつつある昨今、6カ国協議においても日本は怯まず愚直に拉致問題を言い続けることは必要なのではないかと思います。無論、それによって6カ国協議をぶち壊すわけにも行かないので、その辺の匙加減が難しいのですが…。

Posted by: 藤田 | August 28, 2005 at 09:47 PM

先ほどの方が、
>南〔朝〕鮮から絞りとれる様になりますから
とコメントされていましたが、わたしは韓国にそんな経済的余力はないと思いますがね。いかがでしょうか。
日本に比べて経済、相当悪いようですよ。中国にも相当過大に投資しているようですし。
それから、国民の意識・感情です。北朝鮮に援助? 並大抵の負担じゃないですよ。
ドイツの場合、統一して一つの政権になりましたから、苦難の道でしたが何とかやりようもありました。韓国は、政権が別で援助だけですか。
独裁国家ならいざ知らず、韓国は一応自由民主主義国家ですから、民族主義のプロパガンダだけでは超えられません。南北朝鮮だって解放=分断60年の年月を刻んでいるのです。
韓国人の本音は、「(自分たちの生活水準に影響がないのであれば)統一してもいいかも」程度じゃないですか。利己的(別に悪い意味ではなく)な面が強いです。統一を叫ぶのには大してコストは掛かりませんから。本当に統一を願っているのでしょうか。北朝鮮の一般国民はそうかも知れませんがね。韓国人は決して望んでいませんよ。そういう民族ではないでしょうか。
失礼しました。

Posted by: さぬきうどん | August 28, 2005 at 10:59 PM

先ほどのコメント、相当趣旨が逸れてしまいました。
6ヵ国協議では北朝鮮の核問題解決を最優先する、拉致問題解決に関しては、もちろん強く主張するが別のチャンネル、あらゆる方法を工夫し追求すべきだと思います。
核問題で金正日政権を追いつめる。そこに一点集中し、奴らが音を上げるのを待つ、ということでしょうか。
しかし、経済制裁に関して言えば、国内で表立たずにいくらでもできると思います。朝鮮総聯を経済的に追いつめるということですね。材料はあるでしょう。
万景峰号を止めるということだって、やろうと思えばできますが、今はそのための準備を着々と進めることではないでしょうか。
勝負はこれからです。6ヵ国協議がまとまらなければ、イランの核問題のように、国連安保理に付託せざるをえません。
今、武大偉外務次官(彼が今回の事案に関する中国外務部最高責任者でしょうから)のが動き回っているのも、中国政府としてもそういう事態は避けたいのだと思います。
雪斎さまの論文、検討や論議に値すると思います。
長々失礼しました。

Posted by: さぬきうどん | August 28, 2005 at 11:18 PM

そもそも米国は6カ国協議に何を期待しているのでしょうか?本当に北との平和解決を最優先に考えた枠組みであるとは、どうも思えないのです。
そして、この枠組の中に、日本外交の独自性を発揮する余地があるとは到底思えません。

ブッシュ-ライスとしては、北問題というのは(先制空爆を)「やるかやらないか」、やるとしたら「いつやるか」というマターであり、それ以上ではない。いずれにせよ、力関係から言ってもこれが唯一の主題であると思います。
(これを攪乱する韓国などは同盟国ですらない)

ならば米国としては、北との決裂が中露との激突を意味しない形だけ作っておけばそれでいいわけです。余事を考慮せず、自由に料理できます。
中露としても、北と心中しないためのセーフティーネットとして機能すればそれで十分。「北問題」が解決しようとしまいと、自国に飛び火しなければ本当にどっちでもいい。

いずれにせよ、米国の意思が「やるかやらないか」以外にないのであれば、日本外交はこれに従属するしかありません。同盟国というより、米国のサブ軍事システムである日本は、「開戦の口実を与える」あるいは「決裂の口実を与える」存在であればいいわけです。日本が保有する「高いハードル」は、そのまま米国外交に豊富なバリエーションを供給します。

その必要性がある限り、日本が「拉致」を放棄して「核のみ」に足並みを揃えることは、米国が許さないのではないでしょうか。逆に米国が「妥結する」ことを選択するならば、日本はどんなに不本意でも「拉致」を放棄せざるを得ない。

そういう役回りを不本意とするか、理不尽とするか。感情の問題はともかくとして、米国の覇権下に国家繁栄の道を求めるのなら、それはそれでひとつの見識です。
19世紀の日本が、露帝の南下から生き延びたのは、徹頭徹尾、パックスブリタニカに協力したからです。対米従属も、感情面で批判すべきではないと思います。なにせ、国際政治は「酷薄」なのですから、グロスで取り戻せば貸借は成り立つはずです。

まあ、いざとなれば日本の家族会などは、米国の世論工作の駒として「利用」されることになるのでしょう。「非道」な話ですが、米国人の好きそうなシナリオです。先日の「炎天下の座り込みに、米大使館員が匿名で水の差し入れ」なんてクサイ美談が生きてきます。

この問題の決定権は、第1義的にワシントンであるとせねば説明がつかないような気がするのです。

Posted by: 雪風 | August 29, 2005 at 12:18 AM

>さぬきうどん様
>わたしは韓国にそんな経済的余力はないと思いますがね。いかがでしょうか。

ですから「金政権は国民を満足に食わせる気はもうとう無い」と説明したのです。
つまり南北統一に掛かるコスト、すなわち北の生活水準を引き上げる総費用
は発生しません。
むしろ南を下げれば良いのです(笑

とりあえず平壌が真っ暗にならない程度のエネルギーが手に入れば万々歳
ですし、近い将来「遠心分離機使用OK?」なくらいのエネルギーは韓国
から送電されてきます。

Posted by: ペパロニ | August 29, 2005 at 11:41 PM

人質を得て立てこもったテロですね。武器とダイナマイトも持ってる。日本や韓国にしてみれば人質に危害を加えられても困るし、自爆されても困る。この場合、しばらくは説得を試みるしかないですね。食料や衣料品は差し入れなきゃいけないでしょうしね。テロ犯はいつまでも、こもってるわけにはいかないでしょうし・・・。自首を待ちますか?たぶんそれはないでしょうね。最後は突入しかないのではないでしょうか?米国はもちろん突入準備は進めてるでしょうしその機会も伺ってると思いますよ。普通のオプションですよ。日本は当局を信頼し任せればいいのです。

Posted by: ちびた | August 30, 2005 at 02:33 PM

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