堀江貴文の決断
■ 「なるほど。こういう風に落としたのか…」。これが率直な印象である。亀井静香氏への「刺客」はホリエモンこと、堀江貴文氏であった。『読売』記事である。
□ 堀江氏、無所属で広島6区から出馬を正式表明
広島6区からの出馬を決め、自民党本部で記者会見する堀江氏 ライブドアの堀江貴文社長は19日午後、自民党本部で記者会見し、国民新党の亀井静香・元建設相が出馬する衆院広島6区に、無所属で出馬することを正式に表明した。
会見で堀江氏は、「小泉首相の改革路線、郵政民営化に賛成だ。志も共通だ。初めての立候補であり、ぜひ無所属で自分の志を試してみたい」と述べた。
広島6区での出馬を選んだことについては、「(広島6区には)郵政民営化に賛成している候補者が今のところいない。小泉首相の改革路線を止めてほしくないという思いがあり、象徴的意味で改革を止めないという私の強い意志を試したい」と説明した。
堀江氏は「無所属」で「広島6区」で出馬である。「自民党か国民新党か民主党か」という政党の対立ではなく、「郵政民営化に賛成か反対か」という政策の対立を徹底して演出しようとすれば、堀江氏が「無所属」候補として「党派が何であろうが、民営化には賛成だ」と説いて回るのは、小泉総理周辺にとっては心強いことであろう。小泉総理は、「自民党をぶっ壊す」どころか「そもそも、自民党の枠組ですら超越した」候補として、堀江氏を位置付けることができるであろう。「無党派層」の票を取り込むために「無党派候補」を擁立するというのは、確かに理にかなったことなのである。
雪斎は、堀江氏の下した決断を前に、もうひとつ別のことを考えている。それは、「堀江氏は、アウト・ローであることを卒業し、エスタブリッシュメントの列に加わる心積りを決めたのか」ということである。
古今東西、「改革」、「革命」と呼ばれる一大変革を手がけてきたのは、「エスタブリッシュメントの中の反対派」である。フランス革命を主導したのは、ブルボン王朝内の「知識層」であったし、ロシア革命を指導したのは、ロマノフ王朝下の「インテリゲンツィア」だったのである。日本でも、明治維新を成就させたのは、「『士』体制下の反対派」たる薩長両藩の下級武士であった。全人口の九割以上を占めていた「農」、「工」、「商」その他の階級の人々の意向などは、明治維新の折には、顧慮されなかった。因みに、小泉純一郎総理も、「エスタブリッシュメント(自民党)の中の反対派」だったのである。その点、「民衆が変革を主導する」というのは、大いなる嘘なのである。逆にいえば、社会変革を担いたければ、「エスタブリッシュメント」の列に加わるよりほかはないのである。
広島6区という選挙区では、堀江氏の当落は、然程、重要ではない。「出馬した」という事実の方が、堀江氏には重要であろう。自民党執行部は、堀江氏が当選してもしなくても、「亀井静香さえ粛清できれば、それでよい」と思っているであろうし、堀江氏にとっては、自民党に「恩」を売れたという一事が大事であるかもしれない。
おそらくは、堀江氏は、此度の選挙で議席を取れなくても、自民党主導内閣が続けば、今後は小泉純一郎総理以下の庇護の下、「改革派実業家」の代表人士として振る舞うことができるようになるのであろう。「一緒に選挙を闘った」ということの意味は大きいのである。堀江氏が議席を取れなかった場合の処遇は、先ず政府の経済・産業政策関係の諮問会議や審議会のポストが提供されるということであろう。当然、そこには、「財界総理」と呼ばれる奥田禎・トヨタ会長を含め、財界の歴々が集まっているし、そうした場所に三十歳過ぎにして出入りできるようになることは、堀江氏にとっては「大いなる出世」を意味しよう。振り返れば、堀江氏は、昨年のプロ野球参入の折には「エスタブリッシュメント」の壁に阻まれた。ニッポン放送という「エスタブリッシュメント」の牙城に手を付けようとした折には、堀江氏は満足した結果を得られなかった。堀江氏は、自分に何が足りないかが判ったのではないか。
雪斎は、この春の「フジ・ライブドア」戦争に際しては、一貫して堀江氏に批判的な立場を取り続けた。しかし、此度、堀江氏が示した「機の乗じ方」には、感服する。今後、堀江氏が従来のような「軽薄」さを改めることができれば、此度の出馬は、「エスタブリッシュメント」入りに向けた彼の大きな「跳躍台」になるのであろう。「運命の女神の後ろ髪は禿げている」。堀江氏は、女神を抱き寄せようとしている。
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Comments
「選挙など一度も行った事ない」と公言していた(?)らしい堀江氏が、今回出馬したことで、「あの堀江氏まで政治の世界に関心を持つようになったのか」と肯定的に考えております。
私は堀江氏という人物はあまり好きではないし、先日のフジテレビ騒動でも彼には批判的だったのですが、今回の出馬表明の場での態度や、今朝の亀井氏とのテレビ討論を見て、以前の人を小ばかにしたような態度が影を潜めていたことにちょっと驚きました。
雪斎先生のおっしゃるように、彼の中で何かが変わろうとしているのかもしれませんね。人間一夜で180度変わる訳ではないし、まだまだ騒動を起こす可能性も無きにしも非ずですが、エスタブリッシュメントであることの必要性を認識し、少しずつそちらに向かって歩みだしているのかもしれません。
Posted by: 藤田 | August 20, 2005 05:52 PM
ホリエモンの夢は「世界一の金持ちになる」事らしいですからね。でも実際には、孫ソフトバンク・三木谷楽天に売上で差をつけられている訳です。
#ライブドアで一番儲けているのは証券業だったと思います。
キャッチアップするなら、何かでかいプロジェクトをやらなくちゃならない。財界の面々とはお近づきになる必要があるのですね。なるほど、合理的行動です。でも予想は「落選」に一票。
Posted by: やすゆき | August 20, 2005 11:06 PM
はじめまして。
雪斎さんは堀江氏の思惑のうち、いい部分ばかりを美しく表現していらっしゃいますが、もっと腹黒い直截な企みがあるとも考えられませんか? 計算高い彼は、エスタブリッシュメントに加わってから何ができるかに思いをめぐらせていると思います。
まず郵貯230兆円の個人金融資産を証券市場に流し込むこと。ライブドア証券が儲かるからです。だから、民営化後はできるだけ資金を証券市場に振り向けようと、世論や政策を誘導するでしょう。彼は稀代の相場師です。
それから、大手通信キャリア寄りの電波行政にくさびを打ち込み、無線LAN事業をやりやすくする。審議会で口出しするなり、有力議員に働きかけるなり、あの手この手で携帯キャリア潰しと無線LAN普及を画策するでしょう。
彼はいま、株取引と無線LAN事業にパッションを傾注しているのです。
さらには、証券取引や企業統治のルールまで口出し、国民に投資をあおりたいと考えているかも知れません。
堀江氏は証券会社やサラ金を経営しながら、庶民には「悪い人にだまされちゃいますよ」なんてうそぶく悪どい金融屋の一面があります。今回の出馬騒動では、表面的には変わろうとしているようにも見えますが、心の奥底の卑しさ、がめつさ、浅ましさはそう簡単に変わるはずがないし、本人も考えを改めようなんてサラサラ思っていないことでしょう。
ただライブドアに不祥事が発覚したら、エスタブリッシュメントの夢は遠のきますね。
Posted by: sasaki | August 21, 2005 03:48 AM
・藤田殿
・やすゆき殿
人間は、機会が来たときにどれだけ果断に振る舞えるかが問題だと思います。
・sasaki殿
結局、堀江氏は、「今後の振る舞い方」次第なのでしょう。あなたが指摘する堀江氏のダーク・サイドも、それが目立つようになれば、彼の歩みを邪魔することになる。彼は、小佐野賢治のような「一代の梟雄」になるか、三井・安田のような存在になるかの岐路でしょう。確かに、此度の出馬は、彼の「梟雄」イメージを薄めてくれたとはいえます。
そして、どんなに気を付けていても、堤義明氏のような末路を辿ることもある。「エスタブリッシュメント」の列に加わるということは、「俺が俺が…」といわない奥ゆかしさを身に付けるということです。
Posted by: 雪斎 | August 21, 2005 05:41 AM
いつもブログを拝見しております。とある経済記者ですが、今日のコメントについて大変興味があります。もう少し詳しくお伺いできないでしょうか。メールアドレスがあれば、教えていただきたくお願いいたします。
Posted by: Pumpkin | August 22, 2005 11:24 AM