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August 08, 2005

「郵政政局」から総選挙へ

■ 郵政民営化法案は、参議院本会議で否決された。衆議院は解散され、総選挙に向かって物事は走り出した。「僅差で可決、成立」という雪斎の読みは、見事に外れた。
 もっとも、雪斎は、政治学徒であって「馬券の予想屋」ではないのだから、「予想が当たったか」ではなく、「何故、そのように予測したか」を説明することのほうが大事である。

 「現実主義者が誤りを犯すのは、相手も現実を直視すれば自分たちと同じように考えるだろうから、それゆえ馬鹿な真似はしないに違いない、と判断したときである」。 ―ニコロ・マキアヴェッリ
 ① 人間を動かすのは、「利害」よりも「感情」だったか。
 「法案否決」への流れを作ったのは、中曽根弘文氏の「反対表明」だったようである。中曽根氏の小泉総理周辺への感情は、かなり険悪であったと伝えられる。実父・康弘氏が「引退」に追い込まれた一件、康弘氏の派閥を奪った山崎拓氏との関係、そして自身の参議院議長就任を邪魔された一件などは、弘文氏の中の反「小泉」感情を鬱積させるに足るものであったろう。
 ② 参議院の「怨念」が噴出したのか。
 久しい間、参議院議員は、衆議院議員に比べて「格下」と扱われていた。妙なことであるけれども、少なくない参議院議員が「ここで参議院の存在感を見せ付けてやれ」と思ったとしても、不思議ではない。
 こうしたことは、考えてみれば当たり前のことであるけれども、雪斎は、「永田町」から離れて暫く経ったために、人間を専ら「合理的な存在」として把握するアカデミズムの作法に寄り掛かった分析をしていたようである。さらにいえば、雪斎は、マキアヴェッリの言葉にある「現実主義者の誤り」を見事なまでに犯したということであろう。政治学の枠組で人間の「感情」や「非合理」を考えることは、実は難しい。そうしたことは、「文学」の領域に近いものなのである。
 もっとも、雪斎の心は、もう既に9月11日の選挙に向いている。反対派議員が味わっているのは、「してやったり…」という達成感かもしれないけれども、今後は次第に不安にさいなまれるであろう。「綿貫・亀井グループ」は、たとえ「新党」を旗上げするにしても、悲惨なことになりそうである。彼らには、党の「顔」も政策の「柱」も、世論の積極的な支持もない。その点、十二年前、「政治改革」を大儀にして自民党から自発的に脱党し、新生党を作った「小沢・羽田派」とは、決定的に条件が異なる。その折の新生党には、「ミスター政治改革」と呼ばれた羽田孜氏がいて、『日本改造計画』という「改革の青写真」を著した小沢一郎氏がいた。積極的なものを示せない「新党」は、泡沫である。「郵便局を守れ」では、政策スローガンにもならない。亀井静香氏か平沼赳夫氏を「看板」にするつもりであろうか。残念ながら、ご両人とも、「ヴィジュアル時代」においては「新党の看板」にもならない。唯一、奇策があるとすれば、野田聖子氏を「看板」にして、「憲政史上初の女性総理を登場させよう」とぶち上げることであろう。ただし、それもまた野田氏が結局、「雇われママ」であるという印象が付いてしまえば、話は終わりである。
 自民党執行部は、反対派議員には公認を出さず、その議員には対立候補を立てる意向のようである。そして、小泉総理は、「反対派とは選挙が終わっても絶対組むことはない」と言明した。カール・シュミットによれば、政治の基本は、「友」と「敵」の峻別である。こうした政治の手法は、対外政策では「危険」を伴うものであるけれども、国内政治では必要に応じ取られてもよい。物事を劇的に動かそうとする折には、そうした手法が必要とされることがある。大久保利通も、佐賀の乱の後には、「敵」である江藤新平の首をさらしたのである。
 雪斎は、小泉総理の「構造改革」路線を一貫して支持してきた。小泉総理は、英語圏では「一匹狼」〈Marverick〉の語で紹介されているのだそうである。雪斎は、ふと小椋佳さんの『孤高の鷹』の一節を思い起こす。

このたびの命 思い為す宿命
好まずと言えど 戦いの嵐
荒れ止まず 挑みの心 また湧き止まず

誰のようにも 生きられず
誰のようにと 生きもせず

梢の高み 孤高の鷹が
心ならずの 爪を磨ぐ

 もう八年くらい前に、雪斎は、小泉純一郎という人物に会って、言葉を交わしたことがある。雪斎も、知識人として一旦は応援することにした以上、「孤高の鷹」であった小泉総理の執政を応援し続けようと思う。

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Comments

>自民党執行部は、反対派議員には公認を出さず、その議員には対立候補を立てる意向のようである。そして、小泉総理は、「反対派とは選挙が終わっても絶対組むことはない」と言明した。カール・シュミットによれば、政治の基本は、「友」と「敵」の峻別である。こうした政治の手法は、対外

ああ~、雪斎先生、一番読みたい部分が切れてしまっています。恐れ入りますが修正お願いします。

Posted by: 藤田 | August 08, 2005 at 09:18 PM

・藤田殿
修正しました。何故、切れたのだろう。

Posted by: 雪斎 | August 08, 2005 at 09:26 PM

>何故、切れたのだろう。

今日は予想外のことが良く起こる日ですね(笑)。

敵を炙り出して、構図を解りやすくして、相手を叩くというのは、まさに一つの王道的戦術だと思います。
さて、その戦術で「抵抗勢力」にされてしまった亀井氏ですが、解散決定後のあの狼狽振りをみていると、もしかしたら「本当に解散するとは思ってなかった」のかもしれません。
敵(小泉首相)を知らず、予測も甘い。実は完全に「してやられた」のは亀井氏とその周辺なのかもしれません。

Posted by: 藤田 | August 09, 2005 at 02:45 AM

私も先週の水曜日ぐらいまでは可決と読んでいました。素人なので当たらなかったことは気にせずに次のことを考えてしまいます。簡単に言えば、「どうやったら岡田さんを男にできるか」ということです。もっとも、民主党に義理も人情もないので単なる思考ゲームで本音を言えば、こういう作戦をとられたら、小泉自民党が困る手は何か(それへの対抗策)ということに関心が移っています。

まず、衆院で可決、参院で否決で解散総選挙というわかりにくさを攻める。しかし、これだと造反議員の言い分と重なってしまって今ひとつインパクトがない。

次に自公連立に楔を打つ。「小さな政府」を指向するといいながら、それとは対照的な政策に重点を置いている公明党と連立を組んでいる非を責める。これもやりすぎると、公明党との連立という選択肢を消してしまうので加減が難しい。

考えてみると、8日の自民党の「分裂」というのは明日の民主党の姿ではないでしょうか。ある明確な方向を示して改革を進めようとすると、外部の抵抗だけではなく内部の分裂を招いてしまう。目先の選挙も「勝って当たり前」と周囲が見るから意外と大変だと思います。党首がこの辺の事情に自覚しておられれば、意外と政権が転がり込むかもしれないが、現段階では確率が小さい気がいたします。

Posted by: Hache | August 09, 2005 at 03:34 AM

9月11日の選挙で国民の声はどうでるか、興味あるところです。

Posted by: 落選させるべき議員リスト | August 09, 2005 at 08:09 AM

今回の解散劇の後の報道番組で、自民党の安倍幹事長代理(だったと思います)は言いました。
「全特(全国特定郵便局)の支援はいらない」
「民主党は全逓(日本郵政公社労働組合)から支援を受けているから郵政改革はできない」
と、これまでの支持基盤を捨て、更に民主党を労組依存型の政党であると断言して、選挙に臨む方針のようです。
自民党は、改革反対者を切ると共に全特からの支援も断ることによって組織依存型選挙から脱却し、改革者である、とのイメージを有権者に与える作戦に打って出ました。これにより、都市部の多くの浮動票を獲得できるとの読みがあるからでしょう。
更に、民主党に対しては、「郵政改革に反対した守旧派」と共に「全逓をはじめとする労組を基盤にした政党には改革はできない」と批判してくるものと思われます。
これに対して、民主党は何ら反論することはできません。何しろ、正鵠を射た批判なのですから。民主党にできることは精々「ほかにだいじなことがある」と言って、問題をそらすことだけです。
自民党のこの賭けがどう出るかはまだ判りません。しかし、自民党が勝利したときが、真の都市型政党誕生の序章となることと思います。

Posted by: とのじ | August 09, 2005 at 10:22 AM

雪斎先生、8年前小泉首相と言葉を交わされたとのことですが、そのときどんなお話をされたのか、そのときの正直な印象について、お教えいただけたら幸いです。

Posted by: 藤田 | August 09, 2005 at 12:19 PM

さらに気になる1点

衆院採決を棄権した、古賀誠氏の処遇はどうなる?こいつに戦いを仕掛ける勇気はあるのか?

Posted by: ちびた | August 09, 2005 at 06:01 PM

「現実主義者の誤り」‥ゲーム理論も相手の合理的な行動を前提にしていますので,感情で行動する相手,考えるのを止める相手,間違う相手との対戦には(現実),役に立たないでしょうね~。

Posted by: そ~めん | August 09, 2005 at 09:20 PM

戦略の失敗は戦術では補えないといいます。戦略の上には、さらに大戦略があり、つきつめていえばそれは「ビジョン」や「志」ということになるのでしょうか。


いずれにせよ、小泉さんの大戦略は「改革の貫徹」という「グランドセオリー」です。これに対して、抵抗勢力といわれる人々の戦略は「個々の利権の維持」という「各論」でしかなく、戦略と呼べるものかどうかすら怪しい。この対比はあまりにもクリアです。


亀井氏らは、ポーズでもいいから小泉の掲げる大戦略に対抗できる戦略ビジョンを打ち上げてから事態を迎えるべきだったし、なぜそれを最後までしなかったのか。「手法」だの「プロセス」だの「説明不足」だのと、話を矮小化させた時点で、彼らの衰亡は決まったのだと思います。


このレベルの戦いで敗北していた以上、「抵抗勢力」のレッテルを貼られた人々が、断固として否決に動こうが、節を曲げて可決に同意しようが、どちらも結果は同じ。遠からず政界からの退場を迫られていたことでしょう。
真珠湾直前の大日本帝国ではありませんが、「ジリ貧になるか、ドカ貧になるか」しか選択肢がない。ならば、なるべく派手な大立ちまわりを演じて滅び、後世に名を残すことができれば再起の機会も訪れる、と考えるのもまた、ひとつの合理的な考え方かもしれません。

小泉さんの言葉をそのまま容れるならば、今回の一件は、「古い自民党の消滅過程」の一コマが、よりドラマチックになったにすぎません。「日本の戦後史が本当の意味で終わる」という大テーマには揺るぎがない。
その意味では、否決や可決、解散かどうかはあまり大きな問題ではなく、個別の案件について予測屋ではない政治学者の予想が違っていたとて、特にどうということは思いませんが。

以上、今回の郵政政局を戦略論から語ってみました。

Posted by: 雪風 | August 10, 2005 at 12:29 AM

日本が持てるものと持たざるものに分離し始めて10年。その固定化が決定的となった4年間でしたね。海外に住み時々日本に帰ると政治とアカデミズムの貧困さに絶望します。

Posted by: sin | August 10, 2005 at 10:50 AM

 皆さん、ありがとうございました。
 コメントは、ひとつだけ。すみません。
・ 藤田どの
 当時、拙者は「かけだし」だったのですが、一番、最初に新聞に書いたのは、「厚生官僚」を批判する内容のコラムでした。小泉純一郎氏は、「よく書いてくれた」というようなことを仰っていたような記憶があります。

Posted by: 雪斎 | August 10, 2005 at 02:42 PM

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