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July 12, 2005

「核も拉致も」という二重目標

■ 「六ヵ国協議」が来る25日の週に再開されることになるようである。『共同通信』は、「拉致含む包括的解決目指す 首相、6カ国協議で」の見出しで次の記事を配信している。
 小泉純一郎首相は11日午後の参院本会議で、7月下旬開催で合意した北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議に臨む方針として「北朝鮮に核問題をはじめとする諸懸案の解決を関係諸国と連携しつつ求めていく」と強調、拉致問題を含む包括的な解決を目指す考えを示した。
 拉致問題の行き詰まりで、北朝鮮に対する経済制裁を求める声が強まっていることには「経済制裁は可能な一つの手段と考えているが、まず制裁ありきではない」と述べ、慎重な姿勢を示した。

 この「六ヵ国協議」は、日本にとっては、かなり条件の悪い協議になりそうでえある。岡田克也・民主党代表は、協議における「実質的な進展」を政府に要求したようであるけれども、何を以て「進展」と観るでは関係各国では相当な温度差がある。おそらくは、米韓中露四ヵ国は、「核さえ解決すれば…」と考えているであろうけれども、我が国の方針は、「核も拉致も」である。我が国は、他の国々に比べれば明らかに高いハードルを自らに対して設定しているのである。実際、宋旻淳(韓国首席代表、外交通商次官補)は、「日本人拉致問題を6カ国協議の議題にできないのは明らかで、日本側も分かっている」と言明したけれども、細田博之(官房長官}は、「この場を借りて拉致問題を強く申し入れる。向こうがどんなに聞きたくないと言っても、言わなければならない」と述べ、拉致問題提起の意向を示している。日本にとっては、対「六ヵ国協議」戦略における「敵」は、北朝鮮というよりは、このような関係諸国との「認識の差」なのであろう。
 「戦略の本質は、手段の限界に見合った水準に、その目標の次元を下げることである」。この永井陽之助教授における「戦略」の定義に従えば、「核も拉致も」という我が国の対「六ヵ国協議」戦略が、我が国の持つ「手段」に照らし合わせて、理に適ったものであるかは甚だ疑問である。「核も拉致も」という「二重目標」を追求をするにしても、そのための手段は、具体的には何であろうか。日本には相対的に立場が近い米韓両国ですら、「拉致」の側面で対朝圧力を強めようとしているわけではない。日本国内諸層が信じているのとは異なり、日本単独での経済制裁は、かなり効果の薄いものでしかない。韓国紙『中央日報』 によれば、韓国政府は、北朝鮮の核放棄の暁には、「北朝鮮版マーシャルプラン」を実施することを検討しているのである。「核も拉致も」戦略には、手段が伴っていないのではないか。
 雪斎は、「六ヵ国協議」に際する限りは、「核だけ」という次元に目標を下げるべきなのではないかと考えている。「核だけ」という目標であれば北朝鮮以外の関係五ヵ国が足並みを揃えることは容易である。「六ヵ国協議」での対朝説得が不調に終われば、国連安保理付託という段階に粛々と移ればよい。ジョージ・W・ブッシュの対イラク政策を批判した米国の一現実主義者も、「諸国の協調が図られた上でならば、北朝鮮の建設中、稼動中の核施設に限定的な武力行使に踏み切ることも排除されない」という趣旨の見解を示している。要は、対朝包囲網の形成のために、どのように確実性を担保するかということなのである。「拉致」は日朝国交正常化交渉の折に本腰を取り組むのがよろしい。「拉致」が解決されない限り、日朝国交正常化はないし、その結果としての対朝援助の実施もない。これが原則である。
 ただし、こうした「核だけ」戦略は、当面の間であっても「拉致棚上げ」を意味するが故に、拉致問題に絡む国民感情からすれば、明らかに受け容れ難いものであるのは間違いないであろう。それは、おそらくは、戦前期に「満州放棄」を唱えるのと同じくらい受け容れ難いものであろう。当時は、「満州は父祖の血で購った土地である」という感情が支配的であったのである。このように考えれば、石橋湛山という言論家の覚悟は、大したものであったに違いない。雪斎は、全然、石橋の域に達していない。

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「国際情勢」カテゴリの記事

Comments

仮に、この協議で北が核放棄に向けてなんらかの
アクションを起こし、その見返りを....という話に
なったとしたら(σ(^_^;的にはありえないifだと思い
ますが)、その際に見返りとして(核施設の解体費用・
当座の原油代金などの名目ですな)、我が国から
北へ金が動くことが考えられます。拉致に関して何も
解決してないにもかかわらず。こうなると、本当に難し
い決断を迫られるんでしょうねぇ。

Posted by: おおみや%NEET | July 11, 2005 at 11:52 PM

おおみやさんが言われるように、
日本が拉致を取り下げて、なんとか核問題で北朝鮮が核の放棄を約束したら、日本も、その「マーシャルプラン」に多額の資金援助をすることになるとしたら、日本の拉致問題に関する原則はどこか行ってしまいますね。
そして、おそらく、北朝鮮は、多額の援助をもらいながら、約束は口だけで、核開発は継続されて・・・。
この道はいつか来た道・・・・。

Posted by: たまま | July 12, 2005 at 01:29 AM

ロシアの原潜解体費用みたいに日本が評価されにくい部分でお金をだしたり、援助したりするのははがゆいですね。核問題は大量破壊兵器でありそれを理由にイラクに侵攻した事例があるわけですから(北は保有していると公言してますし)北朝鮮に対する対応は相当甘いと思います。それは背後にロシアや中国といった北朝鮮の飼い主がいるからそう簡単にはいかないんでしょうけど正義も悪も毎回基準が変わる国際政治の世界は個人の感覚では測れない難しさがありますね。現状で日本だけが経済制裁しても効果は疑問視されますが国民感情的には満足しますけど(小市民)

Posted by: なかと | July 12, 2005 at 01:51 AM

いつも楽しく読ませてもらってます。
我が国としては拉致問題にマトモに対応しないような「ならず者」と、どういう原則において、交渉するのか?を考えないといけないのかもしれませんね。地政学的なリアリズムの追求を必要とする一方で、国家の威厳と道義的な品格が問われると思います。相手がならず者である以上、つきあうにしても「絶対に超えられない一線」というものがあると思います。

Posted by: ムシメ | July 12, 2005 at 02:12 AM

日本またはアメリカにとって極東ロシア軍と提携する、という選択肢はありえませんかね?地上軍を出せないのが問題なら、ロシアと組むというのには一定の合理性があると思います。問題は見返りに何を出せるのか、という話ですが。

Posted by: ムシメ | July 12, 2005 at 02:16 AM

この協議にあたっては、日米韓の強調が重要と思われますが、日本は、韓国の北朝鮮マーシャルプランに乗る条件(拉致問題の解決等)をはっきり韓国に提示するべきです。 この条件が認められないならば、日本は資金は全く出さないないが、韓国のプランを受け入れるという決断が必要だと思います。 そして、拉致問題は、この協議とは切り離し、個別に日朝国交正常化交渉で解決を求めていかざるおえないと思います。

Posted by: モッコス | July 12, 2005 at 02:44 AM

ここで「拉致問題とりさげ」を言い出すのは愚の骨頂でしょう。
アメリカは「人権」を北朝鮮への圧力の理由としてこれからも押すはずです。
ここで取り下げてどうしますか。アメリカの梯子を外す様なものです。

また北朝鮮の核放棄が六カ国協議でまとまれば、北朝鮮は別に
日本の金なんかあてにしなくても良い状況を得られます。
韓国と中国からご褒美がタンと貰えからです。

で拉致問題をその後に持ち出せば、必ず中韓朝が揃って日本を
非難する事は明白で、北朝鮮にとっては願ったりかなったりです。

また韓国政府と議員は、一貫して日本に拉致問題を取り下げる様に
主張しています。理由は「チョッパリの癖に生意気だ」でお話になりませんが、
これもまた事実です。

また拉致問題解決は北朝鮮に何ら負担になりません。
別に日本が利用する軍港をよこせとか言っている訳ではありません。
にもかかわらず解決に向けてロクなアクションを起さない理由を考えるべきでしょう。

Posted by: ペパロニ | July 12, 2005 at 01:36 PM

コメントいただき恐縮です。いつも素晴らしい内容のブログを読ませて頂き、ありがとうございます。
TBした私のエントリもあくまで物事が好転することを考えた上でのあの内容なので、ライス氏が来日して拉致問題をあまり出さないように釘をさしたりしたことや日本がこれまで長きにわたりこの問題を放置してきたことからも、現実を直視すれば日本の今回の目標設定(というよりも協議を上手に終結させるための妥協点)は核問題に焦点を絞ること、だとも感じています。いずれにせよ、日本にとってそんなに良い結果がもたらされるだろうとは感じられないことがこの6カ国協議から一番痛感させられる点ではありますが・・・。
これからも更新楽しみにしております。

Posted by: vollleben | July 12, 2005 at 08:42 PM

北朝鮮問題に関しては自分のブログでも取り上げており、タイムリーなのでまたTBさせていただきました。この6ヶ国協議という場自体、中露韓という自国民の人権をあまり重視しない国が含まれています。まして他国民の人権問題に無関心なのは当然過ぎるほど当然のことで、最初から人権問題を話し合うのに適した場ではないのは分かっていました。それが問題の本質かと思います。
ただし、日本としては、まさにペパロニさんのおっしゃるようにアメリカの梯子を外すような真似をしてはなりません。「広範な人権問題の一環として」重視しつつ、毅然たる態度を継続するべきでしょう。現在の小泉政権の「包括的解決」は誠に正しい方針です。これで世界中を外遊して主要な民主主義国の大半で無条件に賛同を得られたのはまさに適切な政治的方針であるからです。
米国を始め、欧州諸国も日本以上に世論が政策に影響を与える国です。日本人としては拉致問題は何年も続いている誰もが知っている問題ですが、英語圏含め世界的にはまだまだ知られていない問題です。その事を念頭におきつつ、6ヶ国協議と安保理以外の国際的枠組みを模索するなど、粘り強い取り組みが必要でしょう。肝心の日本自身が冷淡では支援する国など無くなってしまうのです。
なお、満州の例えは国民感情からと思われますが、領土や経済での損得と人権問題を同一に扱うのは余りセンスが良くないと思います。知識人が陥るいくつかの陥穽の典型例という気もしました。この問題は、民主主義国でしばしばある、国民の自然な倫理観が正解を導く好例の一つと思います。

Posted by: カワセミ | July 12, 2005 at 09:09 PM

自分もカワセミ様やペパロニ様と同意見です。米国が「北朝鮮の人権問題」を持ち出したのですから、日本も足並みをそろえて、他の民主主義国家と包囲網を作っていくべきでは無いかと考えます。例え、六カ国協議で拉致問題が大きく進展しなくとも、コノ問題を言い出す事によって、拉致問題に詳しく無い他国へのアピールにもなるのではないかと思います。本来なら、当事者である日本がもっと率先してそのようなアピールを行い北朝鮮に対して圧力をかけるべきなのでしょうが・・・。

Posted by: チラシ | July 12, 2005 at 11:52 PM

皆さん、コメントをありがとうございます。
この件に関しては、またエントリーを用意するつもりです。

Posted by: 雪斎 | July 13, 2005 at 12:57 AM

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