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July 05, 2005

郵政と靖国と

■ 今日、郵政改革法案の衆議院本会議採決が行われる。自民党内から欠席したり反対票を投じたりする議員がどれだけ出るのかが焦点になっているようであるけれども、こういう投票絡みの話は、「結果が出なければ判らない」という様相を濃くする。客観的には、「反対派」の旗色が悪いのであろう。それにしても解せないのは、「反対派」の議員にとっては、郵政改革は、議員生命を賭してまでも反対する価値を持つ案件なのかということである。たとえばイラク自衛隊派遣のような「戦争と平和」や「日本の対外威信」が絡んだ案件ならばともかくとして、郵政改革のような「富の配分」案件に対して、何故、これほどまでに切迫したものを感じているのであろうか。雪斎は、「俺たち、これだけ必死に抵抗したよな…」というエクスキューズをするために抵抗しているのではないかと踏んでいる。


■ 下掲の原稿は、去る7月2日付『毎日新聞』「論点」欄に掲載されたものである。同欄では、小泉純一郎総理の靖国神社参拝に関して、評論家・保阪正康氏が「反対」の立場から、山崎正和先生が「中立」の立場から、それぞれ原稿を寄せているはずである。
 それにしても、靖国参拝の話がこれほどまでの日中関係の「棘」になってくれば、参拝を「是」とする立場の人々も、「外交戦略的な」(diplomatico-strategic)見地から靖国参拝の理を説く努力を始めなければならないであろう。「中国に対し毅然とした態度で臨め」という言辞は、政治的な「運動」のスローガンたり得ても、実際の対中政策を展開する際の「方針」たり得ない。現下の対中関係を扱う保守層の言論の多くは、「嫌中」感情を露わにするだけのものに終わっているけれども、中長期的な対中関係をどのように紡ぐかという議論こそが、本来は行われなければならないはずである。冷戦期の米国ですら、ソヴィエト共産主義体制の「転覆」を狙わず、「安定した関係」を築くことに腐心したという事実は、重視されなければなるまい。

  □ 『毎日新聞』「論点」欄原稿―靖国参拝「賛成」の立論
 第二次世界大戦直後、米国のリベラル層の中には、ソヴィエト共産主義体制の実態を知らぬままに対ソ宥和姿勢を示す向きがあった。往時、ラインホルト・ニーバー(神学者)は、そのようなリベラル層を批判して次のように語っている。「責任ある国際政治の観察者は、われわれがロシアとの安定した合意の基盤を探さなければならないことを承知している。しかし、ソヴィエト連邦の政策をゆるぎなく正しいものとして受け入れることだけが、その唯一の方策だとみなすことはばかげたことだ」。
 このニーバーの言葉は、「ロシア/ソヴィエト連邦」を「中国」に置き換えれば、そのまま現下の日本における対中姿勢の歪みを示唆している。対中関係の現状を前にすれば、毅然とした対中姿勢を求める意見が、それ自体としては中国との「安定した合意の基盤」を探すことには余り役立たないものであるのは、間違いないであろう。
  その一方で、そうした「安定した合意の基盤」を探すために中国政府の主張を正しいものとして受け容れるべきだという意見は、具体的には小泉純一郎総理が靖国神社参拝を断念することを「対中配慮」の観点から要請している。しかし、靖国参拝断念という「対中配慮」は、果たして中国との「安定した合意の基盤」を築くのに結び付くのであろうか。この問いを考える際に確認すべきは、従来の中国政府が日本との「安定した合意の基盤」を築くために何を行ってきたのかということである。昨年の中国海軍原子力潜水艦による日本領海の侵犯、四月の「反日」騒動最中における日本在外公館や店舗の損壊、さらには日本経済水域周辺での中国船舶の活動といった一連の出来事は、中国政府の対日姿勢における国際常識からの乖離を際立たせたが故に、中国政府にこそ様々な「対日配慮」を示す番が回っていることを物語っている。。そうした明白な「対日配慮」が示されないままに、靖国参拝断念という「対中配慮」で当座の摩擦が鎮まるかのように考えるのは、前に触れたニーバーの言葉のように「ばかげた」こととはいわないまでも、率直に安易な印象が拭えまい。対外関係の円滑な運営に際して、当事国の何れかの一方の「努力」や「配慮」だげが要請されるという考え方は、かなり不可思議なものではないであろうか。
  日本の人々に要請されるのは、そのような安易な「対中配慮」に依らずして、中国との「安定した合意の基盤」を築く方途を探ることである。靖国参拝の扱いは、現下の対中関係の一風景であっても総てではなく、対中関係は、日本の対外政策の一領域であっても総てではない。筆者は、靖国参拝に代表される対中関係の様相は広く国際社会の衆人環視の下に晒されるべきであると考えている。小泉総理の靖国参拝に寄せる中国政府の姿勢は、国際常識に照らし合わせても理に叶ったものであるのか。そうしたことを判断する材料は、日本政府の責任において提供されるべきものであろう。
  『毎日新聞』(二〇〇五年七月二日付)「論点」欄掲載

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Comments

結局、郵政問題って特定局長会でしょう。
そうして特定局長って、地方の名士だったのは、遠い明治の話で、今は筆禍ゾーン。
そりゃ富と情報の再配分で必死にもなるでしょう。

Posted by: 名無しさん@ネット右翼 | July 05, 2005 at 01:07 PM

外出先で車に戻ってくると採決が終わってました。
結果を聞いた瞬間には、衆議院の先生方は念のため
地元に張り付いておかねばならんのかなぁ、と思った
のでした。
個人的には
・この採決であぶりだされた非主流派連中に、
小泉首相がどのような鉄槌をくだすか(笑
・自民党参議院執行部の締め付けはどの程度
効くものなのか
に興味がありますね。

Posted by: おおみや%NEET | July 05, 2005 at 07:56 PM

いつもながら冷静で筋立ての明確なコメントですね。勉強になります。

私はネット証券の画面を横目に、採決の様子を見ていました。少し冷や冷やでしたが、解散・総選挙もありか(絶好の買い場キター!!)などとおもいつつ。ちょっとはしたないですね。

by 小規模投資家@ノーポジ

Posted by: 小規模投資家 | July 05, 2005 at 10:29 PM

必死のパッチの「反郵政民営化オジサマ」達を見ていると微笑ましい。
もちろんバカにしているのだが・・・

特定郵便局なんぞというものは医師会と同じで集票マシーンとしては
もう役に立たないだろう。
現実には創価に頼り切っている。
民主党と連合の関係も似たりよったりではあるのだが・・・

Posted by: ペパロニ | July 06, 2005 at 06:10 PM

・名無し殿
前島密翁の時代ならばともかく、今の時代に「世襲の公務員」という存在にどれだけ理があるかということでしょうね。
・おおみや殿
参議院で決着を付けるまでは、あいまいなままにしておくでしょう。案外、衆議院「造反」議員ですら、参議院可決に協力すれば罪一等を減ずるという形にするのではないでしょうか。
・小規模投資家殿
ロンドンでのテロの翌日は「買い場」だったはずですが、残念でした。しかし、株をやっていると、発想が「鬼畜」になるようで・・・。
・ペパロ二殿
そこが自民党らしいところで。一旦、協力しなかった団体を徹底して干し上げるということは、平気でやるのですよ。


Posted by: 雪斎 | July 10, 2005 at 10:16 AM

>結局、郵政問題って特定局長会でしょう。

+地方の郵政組織と組合というマネジメント集団でしょ。
ぶっちやけ、郵使局なんて、お店として独立させればそれでいいわけです。特定局なんて、特に。
でも、その上に君臨していた階級は、制度が変われば即いくとこないですから・・・。

Posted by: うし | July 17, 2005 at 08:36 PM

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