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July 03, 2005

中露蜜月の幻想

■ 世の中が激しく動いているように見えて実際には余り動いていないという話は、人間の歴史の中では珍しいものではない。昨日の中露首脳会談も、そうした話の事例であろう。とりあえず、『読売』『朝日』『産経』の記事を題材にしよう。

  □ 読売  中露首脳会談「台湾」「チェチェン」相互支援で合意
 【モスクワ=古本朗】ロシア訪問中の中国の胡錦濤国家主席とプーチン露大統領は1日、クレムリンで会談した。胡主席は会談後、中国が陳水扁政権の独立志向を懸念する「台湾問題」と、ロシアが国際的な非難にさらされる「チェチェン戦争」を巡り、中露が外交面の「相互支援体制を強化」することで合意したと表明した。
 両首脳は、中露の「戦略パートナー」関係に基づき、国際舞台での協調指針を示す「21世紀の国際秩序に関する共同宣言」に調印した。
 胡主席は会談後の記者会見で、「台湾」は中国の、「チェチェン」はロシアの「死活的利害にかかわる問題である」として、両問題で中露が外交的に支え合うことの重要さを指摘。「国連改革」や「北朝鮮核問題」でも連携を推進することで一致したと語った。一方、プーチン大統領は、「軍事部門での協力進展」などに満足の意を示した。
 「共同宣言」は、国連を国際関係の軸に据え、米国の勢力抑制を目指す内容。第三国に「社会・政治制度のモデルを押しつけることは許されない」として、民主化や人権問題で中露に圧力をかける米国に連携して対抗する意思を示している。

  □ 朝日  中ロ首脳会談、米の一極支配を牽制 経済など協力拡大へ
 公式訪ロした中国の胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席は1日、プーチン大統領と会談した。会談後に署名された「21世紀の国際秩序に関する共同声明」では、国連改革について「コンセンサス(合意)の原則に基づき、幅広い加盟国の利益を完全に反映しなければならない」と言及。日独など4カ国(G4)が提出を目指す安保理常任理事国拡大の枠組み決議案には慎重に対応する姿勢を示した。
 また共同声明では「国際問題での独占主義に反対する」として、米国の一極支配も牽制(けんせい)した。両国は6月に懸案だった国境線画定作業を終え、協力関係をさらに深める構えだ。
 プーチン大統領は首脳会談で、国境の画定を指して「ロシアと中国の間ですべての重要な政治的問題は解決された。両国の信頼と協力の基礎が築かれた」と評価した。
 共同声明では「国際問題での独占主義や覇権主義、指導的な国と指導される国との分離」に中ロが一致して反対することを表明。「世界共通の問題は多国間の対話を通じて解決されなくてはならず、その中心的な役割を国連が果たすべきだ」として、米国の一極主義に対抗し、多極化・国連中心主義を訴えた。
 胡主席は会談で、共同声明について「すべての重要な国際問題に対する見解を明らかにし、全世界の平和を守る中ロ両国の強い意志を反映したものだ」と述べた。

  □ 産経  中露首脳会談 対日包囲網の懸念 胡主席「戦略的統一行動を期待」
 【モスクワ=内藤泰朗】中国の胡錦濤国家主席とロシアのプーチン大統領は一日、反米的な共同宣言を採択し、米国の一極支配に対抗する姿勢を鮮明にした。独裁的な政治体制を志向する両国による危険な反米ゲームは、米国がとる民主主義拡大政策への危機感の裏返しといえる。中露大接近が今後、対日包囲網の構築につながる懸念も出てきた。
 プーチン大統領は、一日の公式会談に先立つ前夜、モスクワ郊外のノボオガリョボにある大統領の別荘に胡主席を初めて招待し、非公式に会談。大統領は「中露の軍事技術協力と軍事面の共同活動が拡大している」と述べ、中露初の大規模軍事演習が八月に極東の両国国境付近で行われることを称賛した。
 胡主席は「友人として温かくもてなしてくれた」ことに感謝し、「国際、地域問題で(ロシアと)戦略的統一行動をとれるよう期待する」と強調した。米英独仏中などの首脳はこれですべてノボオガリョボに招かれた。主要国の中で、大統領別荘に招待されていないのは、日本の小泉純一郎首相だけとなった。
 胡主席はこれに先立ち、ミロノフ上院議長とも会談。同議長は記者団に対し、「中露両国は、(九月三日の)対日戦勝六十周年記念日をともに祝うことになる」と述べた。旧ソ連軍の対日参戦を評価する中国は、小泉首相の靖国神社参拝問題などで対立を深める対日外交でロシアを取り込む姿勢をみせている。
 中国側は、「(中露が)犠牲を払って反ファシズム、抗日戦争に勝利した」と、日本と戦った共通の歴史を強調することで、中露の結束を印象付ける狙いとみられる。
 さらに、日独など四カ国グループ(G4)が国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指す国連改革問題でも、日本の常任理事国入りに事実上反対する中国に対し、ロシアもG4の決議案に疑問を示すなど、共同歩調に傾斜しつつある。
 国連頼みの中露両国は、日本の常任理事国入りを許せば、自らの地盤沈下にもつながりかねず、国境を接する中央アジアなど旧ソ連圏で相次ぐ政変を食い止められなくなるとの危機感を共有するとみられる。
 胡主席は三日、中国に隣接するシベリアの主要都市、ノボシビリスクを訪れた後、中央アジア・カザフスタンのアスタナを訪問。中露と中央アジア各国で構成する上海協力機構の首脳会議に出席した後、英グレンイーグルズでの主要国首脳会議(サミット)の関連会合にも参加する。ロシアでは「中国のエネルギー供給国の地位に甘んじなければならない」(露有力経済紙コメルサント)との対中警戒感は強い。だが、西側外交筋は中露蜜月は当面続くとみている。

 
 「仮面夫婦」という言葉があるけれども、「接近」や「蜜月」が囁かれる時期の中露関係は、そうした様相を濃くする。今の日本でいえば、「負け犬」から「セレブ」になり早くも離婚が取り沙汰されている某女優のようなものであろうか。
 胡錦濤は、「(中露が)犠牲を払って反ファシズム、抗日戦争に勝利した」と日本と戦った共通の歴史を強調したようであるけれども、この言葉ぐらい実態を反映していない言葉もない。ソ連が対日戦争を闘ったのは、たかだか一週間だけであるし、中国は、それが国民党であれ共産党であれソ連の対独戦争には何ら貢献していない。こうした事情を無視して、中国政府が「俺たち、戦友だったよね…」と声を掛けてきても、ロシアは、「えっ、嘘」と反応するのではなかろうか。もっとも、こうした理屈付けを行う隙を与えたという意味においても、、日独伊三国軍事同盟が、日本外交史上、最たる「愚挙」の一つであることは間違いない。戦前期の日本がナチス・ドイツとの類似で語られる根拠を与えたのは、ナチス・ドイツとの同盟であったからである。
 中露関係は、「猜疑」、「不信」の関係である。この件に関しては、こちらのエントリーで既に言及している。結論からいえば、中露首脳会談で打ち出された「蜜月」が続くという考えは、かなりおかしい。それ故に、「反米的な共同宣言を採択し、米国の一極支配に対抗する姿勢を鮮明にした。…中露大接近が今後、対日包囲網の構築につながる懸念も出てきた」という『産経』記事の記述は、余りにも煽動的なものであろう。冷戦期ですら、対米牽制で一貫した共同歩調を取れなかった中国とロシア(ソ連)が、現時点に至って具体的に対米牽制の施策を取れるとは考えにくい。此度の中露共同声明も、特にロシアにとっては「取り遭えず出してみた」というレベルのものでしかないのであろう。昭和三十年代、冷戦の最中、中ソ両国が同じ共産主義国家として米国に対峙していた時期ですら、中ソ両国の衝突を予見する人々は少なくなかった。戦前には「チャイナ・サーヴィス」の外交官だった吉田茂も、そういう人物の一人だったのである。「どうせ別れるんでしょ」と陰口を叩かれ、実際にそうなっているらしい「元負け犬・今セレブ」女優と同じで、中露「蜜月」の報道には、「どうせ割れるのだろう」と反応してみるのが、賢明であろう。
 ところで、此度の外務省人事は、外務審議官、中国大使の交代を含んでいて興味深い。新審議官、中国大使のプロフィールは、『朝日』の記事によれば、下記の通りである。
   ○ 中国大使
 飯村 豊氏(いいむら・ゆたか)東大中退、69年外務省に入り、経済協力局長、官房長、官房審議官(外務省改革担当)を経て、02年7月からインドネシア大使。58歳。
   ○ 外務審議官(政治担当)
 西田 恒夫氏(にしだ・つねお)東大卒、70年外務省に入り、ロシア課長、ロサンゼルス総領事、経済協力局長などを経て、02年9月から総合外交政策局長。58歳。
 前任の外務審議官である田中均氏や中国大使である阿南惟茂氏は、特に「保守」層の言論家からは誠に評判の良くない人物であった。御両人を「売国奴」呼ばわりした論稿は、保守論壇誌には枚挙に暇がない。雪斎は、特に田中氏に対する批判は不当なものであると思っていたけれども、嫌中感情や嫌朝感情が膨らんだ日本世論の趨勢は止められない。こうした現状では、「チャイナ・スクール」の外交官を中国大使に充てるのは、難しいこととであったろう。ロシア課長経験者である西田氏の外務省ナンバー2昇格は、「非チャイナ・スクール」の飯村氏の中国大使起用に併せ、「ロシア重視、中国牽制」の意味合いを持つのではないか。結局、そうした布陣が組めるという意味において、外務省上層部も、中露蜜月の行方を信じていないのであろう。

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Comments

失礼します。
>ソ連が対日戦争を闘ったのは、たかだか一週間だけであるし、…
これは8月9日から15日までということなのでしょうか。どうも史実とは違うように思うのですが。
戦争をどう定義するかによりますが、奴らは9月2日まで(その後も)やりたい放題をやったのではないでしょうか。日本軍が降伏し、抵抗しなかったといって、「一週間」という一言で終わらせるのではどうかなと思うのです。

Posted by: さぬきうどん | July 03, 2005 at 06:51 AM

 ・さぬきうどん殿
 これだと終戦を何処で区切るかという話になりますね。拙者は、ポツダム宣言受託を以て「終戦」と解しています。「抵抗しない、あるいは抵抗を止めた存在」に対する武力行使が「戦争」といえますかな。
 

Posted by: 雪斎 | July 03, 2005 at 07:11 AM

私なぞは人が悪いものだから、安保理問題に専念していた西田氏が異動するのは、「こりゃアカン」、常任理事国投了宣言かと思ってしまいました。

Posted by: かんべえ | July 03, 2005 at 11:43 AM

ドイツと組んでポーランドを分割
してたソ連に反ファシズムを唱える
資格があるのか疑問ですね^^;
独裁してたのはソ連も共産党も国民党
も同じですし中国は今でも独裁でしょうに。

毎回楽しく読ませて頂いてます。

Posted by: なかと | July 03, 2005 at 02:30 PM

・ かんべえ殿 
国連安保理再編への「実戦部隊」が総合外交政策局で、西田氏がその長であったのは、確かですけれども、西田氏の異動先が審議官というのは、結局、氏がこの件に高い次元で関わり続けるということなのであろうと思います。期待を持ちすぎですかな。
・ なかと殿
はじめまして。
国際政治は、そういう「鉄面皮」の論理が横行する世界ではあります。ソ連と組んでいた米国や英国は何だということにもなりますが、それはいわないことにしましょう。

Posted by: 雪斎 | July 03, 2005 at 06:19 PM

1960年代、同じ社会主義陣営にいて、「アメリカ」という強大かつ共通の敵に対面していたにもかかわらず、同盟関係があれほど脆くも崩れ去った中ソ(ロシア)関係の歴史を振り返れば、雪斎さんの仰るとおり、「中露蜜月関係」など心配する必要はないと思われます。
インドやベトナムとも、今では何事もなかったかのように「良き友」を演じてますが、ついつい30数年前まで国境紛争をしていたことも忘れてはならないでしょうね。
こうしてみると、中国という国は、周辺諸国と長期的に安定した関係を築くのが、極めて下手な国なのではないかと思ってしまいそうです。
いや、むしろ国際的に見れば、日米関係のような50年以上「事実上の同盟関係」を続けてきた例の方が、まれであると見るべきなのかもしれませんね。

Posted by: 藤田 | July 03, 2005 at 07:38 PM

支那からの金の切れ目が縁の切れ目ではないか、
という気がするのです。

Posted by: おおみや%NEET | July 03, 2005 at 08:45 PM

>「抵抗しない、あるいは抵抗を止めた存在」に対する武力行使が「戦争」といえますかな。

軍の指揮官(イショフ)が配下部隊(赤軍)に「作戦行動の停止」を命じていない以上、
戦争は継続状態と見るべきでしょう。

また赤軍が「連合軍に入っているか?」微妙ななところです。
連合国側ではありますがね。

Posted by: ペパロニ | July 04, 2005 at 09:59 AM

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