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June 27, 2005

「拉致議連」の閑古鳥

■ 前のエントリーで米国の対朝政策の歯車が回るのではないかという展望を書いたけれども、イランで「サプライズ」が起こった以上、また様子見モードになりそうである。米国にとって、イランは、「昔、散々、入れ込んだ挙句に裏切られた恋人」である。少なくとも、一九七〇年代後期、イスラム革命が起こるまでは、イランは、米国にとっては「中東における安定の島」であった。1973年10月の「石油戦略」発動の折にも、イランは、その列に加わらなかった。そう「した「蜜月」を終わらせたのが、イスラム革命だったのである。そうであればこそ、革命以降は、米国はイラン潰しに躍起になった。一時期、米国がサダム・フセイン体制下のイラクに肩入れしたのも、そうした事情による。総ては、「イランに裏切られた」ことから始まった話である。
 こうしたイランでの対応が仕切り直しになる以上、米国政府部内に「イランが先。北朝鮮は二の次である」という雰囲気が出てきても、おかしくない。もっとも、日本の政治家も、そうした雰囲気を察しているようである。『産経新聞』の記事は、「拉致議連、休眠状態…政府の消極姿勢“感染” 『民主もやる気ない』批判も」の見出しで次のように伝えている。


 北朝鮮による日本人拉致被害者の家族らが二十四日から三日間、北朝鮮への経済制裁発動を求めて首相官邸周辺で座り込みを行う。政府は細田博之官房長官か杉浦正健官房副長官が対応する予定だが、打つ手なしの状態で対応に苦慮しそうだ。こうした政府の消極姿勢が“感染”したかのように、国会議員らも一時期に比べて拉致問題への関心は必ずしも高いとはいえない状態だ。
 超党派の国会議員でつくる「行動する拉致議連」(会長・平沼赳夫元経産相)は五月、制裁発動を求める国会決議案を自民、公明、民主の国対委員長に提出した。
 しかし、その後は北朝鮮との政府間交渉にまったくメドが立たないこともあって、目立った活動は行われていない。
 議連自体が“休眠”中に「反小泉色を強めている」と永田町の権力闘争に利用されているとの見方もあって、嫌気したメンバーが参加を見合わせる場合もあるという。
 拉致議連は平成十四年四月に旧拉致議連の名称に「行動する」を加えて再出発。平成十五年十一月の総選挙で、多くの議連メンバーが得票数を増やしたことから、参加メンバーは一時は約百八十人に膨らんだ。だが、最近では「そのほとんどが幽霊メンバーになってしまった」(議連幹部)という体たらくだ。
 一方、民主党は五月二十三日、参院拉致問題特別委員会を郵政民営化関連法案をめぐる国会空転で延期させた。委員会には民主党が要求した横田めぐみさんの両親が参考人として出席する予定だっただけに、「民主党も口だけでまったくやる気がない」(自民党筋)と批判する声もあがっている。

 一般的にいえば、政治家は自分の「利害」に見合うものがなければ動かない。「拉致議連」の閑古鳥状態も、「拉致問題」に関わる精力を割くだけの「旨み」が少なくなっていることの証左である。この現実を指して、幾多の政治家の「不実」を批判しても、あまり意味はない。政治家は、そうした「人種」である。『産経新聞』記事は、政府の消極姿勢が感染したと評しているけれども、政府が消極的であろうと積極的であろうと、特に米中両国が動かなければ、実質的な進展は期待できまい。『毎日新聞』記事は伝える。

 小泉純一郎首相は24日午後、日本単独での北朝鮮への経済制裁について「拉致の問題も核の問題も各国協力していますからね。その点で見ていかないと難しい問題だと思う」と述べ、現段階では単独で制裁する考えがないことを改めて示した。首相官邸で記者団の質問に答えた。

 冷静に考えれば、小泉総理の反応は、これ以上を期待するわけにもいくまい。北朝鮮に絡む国際政治は、米国がイランの見極めを付けた跡でなければ、動きそうにない。政治は、「酷薄」である。

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「国際情勢」カテゴリの記事

Comments

同じ民族として、家族会を応援したい気持ちはありますが、米国による北の空爆まで現実味を帯びてきた現状では、もはや日本単独で戦略を組むことは不可能かと思います。

「日本による単独経済制裁」というオプションは、親分である米国が「さほど有効ではない」と判断する限り、絶対にありえません。もはや、日朝関係は、「米朝問題の一部」に組み込まれていることは自明です。
ならばこそ、「家族会の座り込み」などは、日本の議員としては、阿部氏や西村氏のように、心情的に肩入れすることでその立場を強化する人々以外は、触れようにも触れられない問題になっているのではないでしょうか。小泉首相など、気安く家族会と面会して何かの言質をとられたら、日米同盟の足並みを崩す恐れがあります。

ですが、逆にいえば、「日本による単独経済制裁」以上に、強力で実効力のあるオプションが、米国主導で発動寸前であり、その前提で交渉が進んでいるととらえていいのではないでしょうか。家族会への政府や議連の素っ気無さは、その緊張を雄弁に物語るものです。
むしろ、家族会の方にとっては、当人たちがご存知ない間に、望ましい方向に事態が進んでいると考えていいのかもしれません。何がどう進んでいるのか、私たちも知りたいし、家族会の人々には教えておいてもらいたい気もしますが、戦争になるかならないかの熾烈な駆け引きの真っ只中ですから、これ以上の外交機密はありません。国際関係の現実といえるでしょう。

だから、米国はわかりやすいメッセージをこめたじゃないですか。座り込みの方々へペットボトルの水を差し入れて、名を名乗らずに去っていった外交官の話が、幾多のブログであたかも、ただの美談のように載っています。
http://www.tarochan.net/

まるで最近の中央アジアのドミノ革命工作を彷彿とさせる話ですが、米国外交官ともあろうものが、本当に名乗りたくないのなら、外交官ナンバーの車でかけつけるはずはありません。くさい演出で、日本人の涙を狙ったのかもしれませんが、正々堂々と花輪を送った以上の宣伝効果をあげつつあるようです。

これは北朝鮮への凄味の効いたメッセージかではないでしょうか。米国の対朝圧力の中には、拉致問題もからんでおり、日朝問題は米朝問題に組み込まれていることを示したものだと思います。この点について、雪斎先生の分析はいかがでしょうか。

少なくとも、問題が軍事オプションの発動を視野にいれた米国主導の外交駆け引きに発展している以上、日本としては小泉さんに事前に通告していただければ御の字であり、ましてや議連などが軽はずみに騒ぐことが許される状況では決してないのだと思います。

Posted by: 雪風 | June 27, 2005 at 04:54 PM

・雪風殿
 「米国大使館からの差し入れ」は、単純に考えれば、「拉致被害者への米国の支持」を表明したものになるでしょう。前のエントリーでも書きましたけれども、米国の対朝締め付け作業は始動する段階まで来ていると思います。
もし、あの「差し入れ」が外交官の独断ではなく米国政府の諒解の下で行われたものならば、「米国は拉致問題も見ている」という意志を伝えたものになります。
 ただし、こうした米国政府の姿勢も、「ブッシュ・コイズミ」同盟があればこそだということは、忘れてはいけないと思います。このエントリーでも書きましたけれども、この「拉致問題」を「反・小泉」政局に結び付けようという向きがあるのは、かなり問題があると思います。今のブッシュのカウンター・パートとして小泉総理ぐらい上手く振舞っている人物はいない。「人間関係」が一朝一夕に築けるものでないことは、誰でも知っていることだと思います。
もし、ブッシュの後にライスが大統領になって、そのときの総理が町村さんだったら強烈だなと思います。

Posted by: 雪斎 | June 28, 2005 at 12:55 AM

雪斎先生

「ライス-町村同盟」
喝采を叫びたくなるほど素晴らしい未来です!
まさか、お宅まで泊まりに行くことはないと思いますが・・・(^^;

かわいそうなのは家族会の方々だと思います。「日本による単独経済制裁」が、実効力ある唯一のオプションであるかのような「迷信」を誰が広めたのでしょうか。明らかに誰かのミスリードがあるような気がします。

国際政治はもっと大枠で動いてますし、おっしゃるとおり、「ブッシュ-小泉」同盟は、日本単独ではとり得ない選択を前提に話が進んでいるはずです。この問題を切り拓いた小泉さんですから、着地点は探っているはずで、現状のプランを家族会に説明する責任がない、あるいは漏洩リスクのために説明できない、それだけの話だと思います。

となれば、阿部氏あたりが家族会との「信頼関係」をもとに、小泉政権の展望をきちんと説明すべきなのかもしれません。しかし、国家戦略として、世論の中に常に拉致問題を追求する声があったほうが、日米同盟がとりつつある対朝強硬オプションにとっては有利です。中国、韓国ではありませんが、道端で泣き叫ぶ人々がいてくれるとありがたい。

そこで、家族会。何も説明もしてもらえず、「日本単独での経済制裁」という御伽噺を信じて座り込みをしているわけですが、実は誰かに「させられている」のかもしれません。ご本人たちの意向はともかく、政府与党としては、「炎天下にお年寄りが座り込んだ」事実が、国民を刺激すれば、より強硬なオプションに説得力が増します。

それはそれで仕方ないのでは、と思います。雪斎先生のおっしゃるごとく、政治は「酷薄」です。それどころか、対峙する相手は「残酷」「残虐」の極みにある連中なのですから、お年寄りを炎天下のアスファルトに座らせるくらいの犠牲は、容認されてしかるべき範囲内かと。

阿部氏あたり、このことをわかってて、家族会に対してある意味「2枚舌」を使っているのなら、将来の総理総裁のメが出てくると思うのですが。

Posted by: 雪風 | June 28, 2005 at 01:36 AM

・雪風殿
 こういう話は、つくづく「非道」の振る舞いだなと思います。ただし、第二次世界大戦中、ワルシャワ蜂起を煽ってワルシャワ市民をナチス・ドイツに鎮圧させて、その後にワルシャワに自分の軍隊を入れたスターリンのように、政治に携わる人物には、そうした「非道」が要請されるところがあります。小泉総理も安部氏も、そうした意味での「非道」ならば、日本にとっては安心でしょう。

Posted by: 雪斎 | June 28, 2005 at 05:51 AM

深く考えさせられたコメントでの対話でした。

上は国際政治から下は浄水場の設置やら道路舗装やらまで、政治家とはそのような「非道」に対していい意味でも悪い意味でも図太くなければ凡そつとまらないのでしょう(鈍感であってはいけないと思いますが)。

当然、そのような酷薄さに対する素朴な反発は人の道理として抑えきれない。政治の世界では定説かも知れませんが、かつての社共はそのような感覚の受け皿として機能してきた面があると考えます(一歩中に入ればまた別でしょうが)。彼等がその役回りを承知していたのなら、こちらの方がよっぽど「非道」かも…。

Posted by: 中山 | June 29, 2005 at 04:45 AM

「天地に仁なし。万物をもって趨狗となす。」
とは老子の言葉です。2000年前に、老子は政治の本質を喝破していました。

「非道に鈍感であってはならない」ことは、人が人たるために最も大事な「魂」の発露ですが、政治はその「魂」をも利用して「非道」を行うことがある。これが政治学の焦点でしょう。

「反戦平和」の意思は尊くても、それが本当に平和を担保するかどうか。広島を訪れたある国の指導者が、原爆被害のあまりの悲惨さに衝撃を受け、「こんなに強力な兵器を敵のみに持たれたらたまらない」と、自国の核兵器開発を深く心に決意して帰ったという話があります。政治の本質は「非道」であり、「酷薄」なのです。

拉致被害者が全員無事に帰還されることを心から祈ります。
そのために、政府にはある時はじっくりと待ち、ある時はなりふりかまわず迅速に、最も有効な手段を、最も効果的に行ってもらいたい。

もし、日本単独の制裁行動をとったとして、それは中朝の狙う「日米分断策」にはまったことにはならないと、誰が保証するのか。米国にすらそっぽを向かせて、中、朝、韓とどうやって対峙するのか。こういう議論の上での運動なのでしょうか。

目先にある「お涙ちょうだい」浪花節に惑わされて国策を誤った挙句、生存する拉致被害者まで処刑され遺骨すら帰ってこない結果になれば、それこそ「非道」の極みです。そんな「非道」に、高齢の家族会の人々を利用させるべきでは決してない。

今や、米空母7隻が西太平洋に集結し、東アジアに展開する米軍に配備された戦略兵器、戦術兵器で、金王朝を数時間で抹殺できる体制が、いつでも発動可能と聞きます。
また、北の核問題を安保理付託し、全世界規模の経済制裁をするオプションすら具体性を持ちつつあります。

このような息詰まるような国際環境下で、普通の人が「日本単独の経済制裁」を唱えれば、これはもう冗談としか思われないか、頭の構造を疑われるはずです。
にもかかわらず家族会の人々に、そういうお題目を叫ばせることの酷薄さ、非道さ、これは何なのかをよく考えたいと思います。

Posted by: 雪風 | June 29, 2005 at 05:54 PM

少し前の話になってしまいますが、TBしました。
例えば私のブログで書いたことなんかは馬鹿げた取り組みなのかもしれないけれど、「じゃあ何をすればいいのか」ということはわからない。「子供じみた」手段でしかないとしても、「理想主義」であったとしても、ね。
「新しい仕組みを作る」意識が必要などと書きましたが、はたしてそれがどれだけ現実的な考えなのか、それも私にはわからない。そして日本の状況をアメリカだけと比べるのもおかしいのはわかっているんです。

それとひとつ、どういう理由があるにせよ少なくとも特定失踪者の選定くらいは税金を使って国がやるべきであって、そういう意味でやはり政府は無策といわれて仕方のない面があると思います。「政治は酷薄」であるという以前の問題ではないのかな、あれは。

私自身は小泉首相を結構評価しています。あなたのおっしゃることは非常によくわかる。しかし拉致問題の細かい動きを追っていくとやはり批判せざるを得ないのですね。
ただ現在、拉致を扱うブロガーは小泉批判一辺倒にはみな懐疑的立場です。「救う会」に政治センスがないのは事実。思考停止と言われても仕方のない部分があるでしょう。しかし家族会はおそらくもっと「自覚的」です。

「経済制裁」に関しては北朝鮮が核保有宣言した時に「時期を逸したな」と思いました。そもそも経済制裁そのものに大きな影響力があるというより(影響がないとは思ってませんでしたが)、交渉カードとして利用していけるだろうという認識でしたので。しかし韓国などの経済協力の話が進んでいっている今、時機を逸したということを別としても、本当に経済制裁の効力は失われていっていると思います。(しかし状況が変わった場合、また使える局面というのはでてくるとも思っていますが)

日本単独でどうこうできない問題というのはそう。
でもはたしてやるべきことが一つもないかといえばそういうことではないとも思う。
なんだか御託ばかり並べてしまいましたね。けれど「政治的発想」「手段」でやっていかねばならないということを考えていたところだったので、思わずいろいろ書いてしまいました。
それでは、長文失礼致しました。

Posted by: とんぼがえりベイビー | July 07, 2005 at 02:59 PM

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