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June 13, 2005

「靖国」参拝というクリスタル・ボール

■ 『溜池通信』「今日の不規則発言」欄で言及された下の記事には、雪斎もコメントを付さなければならない。「昨秋の日中首脳会談、参拝継続を事前伝達=郵政廃案なら解散-首相秘書官が講演」の見出しで『時事通信』が配信した記事である。
 小泉純一郎首相の飯島勲首相秘書官は11日夜、長野県辰野町での会合で講演し、昨年11月にチリで開催された中国の胡錦濤国家主席との首脳会談について、事前に日本側から「首相は2005年も靖国神社を参拝する考えだ」と伝えていたことを明らかにした。
 飯島氏は「チリで胡主席と会う前に(中国に対し)初めて強烈なカードを切った。『小泉首相は時期は別として来年も靖国神社を参拝する。それでも不都合がなければ会談を受ける』と伝えた上で会った」と指摘。中国側も小泉首相の意向を承知して会談開催を受け入れたとの認識を示した。
 飯島氏はまた、この首脳会談に続く昨年11月のラオスでの小泉首相と温家宝首相の会談でも同様に、小泉首相の靖国参拝継続の意向をあらかじめ中国側に伝達していた、と語った。その上で「国の指導者たる小泉(首相)が不戦の誓いで靖国神社に行くのは何らおかしくない。多分必ず参拝すると思う」と述べた。

 この飯島勲秘書官の「内幕暴露」に小泉純一郎総理の意向が全く働いていなかったとは、信じがたい。秘書が何かを語るときに考慮されるのは、いかにして、その発言によって仕える政治家の「利益」が極大にされるかということである。
 雪斎は、この「内幕暴露」には、二つの意味を持ったのではないかと思う。一つ目は、当然のことながら「対中牽制」の意味合いである。おそらくは、小泉総理は、飯島秘書官の発言を肯定することも否定することもなく「何時行くかは適切に判断する」と語り続けるのであろう。こうした曖昧さは、かなり不気味で嫌らしいのであるのは、間違いあるまい。そして、飯島秘書官は、この「内幕暴露」を「事実の証言」として語り続ける。このようにして、中国政府の「無理」の印象だけが、残ることになるのであろう。しかも、国際舞台では、宰相・小泉純一郎の人気や声望は、普通に日本国内で考えられているよりも高い。「中国政府は、靖国参拝に暗黙にせよ小泉に同意を与えていたのに、後から難癖を付けている」という印象が国際社会に広まれば、中国政府の「威信」や「信頼度」も、かなり低下するであろう。
 二つ目は、この「内幕暴露」は、小泉総理にとっての「国内の敵」を焙り出す効果を持ったのではなかろうか。立法府の長としての立場を踏み越えて総理に参拝断念を迫った河野洋平衆議院議長を初めとして、昨日の民放番組で参拝断念を唱えた加藤紘一氏や野田毅氏のような政治家は、「自分は小泉の敵だ」とわざわざ表明したばかりか、その参拝断念の働き掛けが無意味なものであったことを知らされたことによって、「梯子を外される」結果を招いたことになる。小泉総理は、国内政治の運営に際しても、「抵抗勢力」という言葉で自らの「敵」を明示した上で、「抵抗勢力も協力勢力だ」といった言辞で「敵」の毒気を抜く手法をとってきたわけであるけれども、此度もまた、そうした手法が採られたのである。対中配慮のために靖国参拝断念を唱えた国内各層の中には、内心、「早まり過ぎた…」と焦っている向きもあるのではなかろうか。
 「友」と「敵」を峻別することに政治という営みの本質を観たのは、カール・シュミットであった。小泉総理の政治手法は、このシュミット流の政治哲学の衣鉢を継いでいるのであれば、小泉総理は、当然のことながら「非常時の決断」という政治の意味を熟知しているのであろう。雪斎は、「怖ぇー」と率直に思う。

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「国際情勢」カテゴリの記事

Comments

豪に千人の工作員がいるという証言も、マスコミはスルーするし、参拝反対包囲網がしかれてるみたい。マスコミにも工作員がゾロゾロいるし、と素人は感じてるんですが。
たかじんの番組で今度のサッカーとナショナリズムがテーマになり、『君が代』習ったことないという若い女性タレントが歌い ♪きみがーよわ ちよにやちよ スネーに(以下知らず)
私が工作員なら、次は『君が代』国旗反対運動しますね、抵抗感なさそうだし‥。

Posted by: 夜回り | June 13, 2005 at 09:28 AM

いやいや、そうなんですよ。
小泉さんはホントに喧嘩が上手。逆らって勝った人はいないのに、釣られて戦いを挑む人は後をたちません。

Posted by: かんべえ | June 13, 2005 at 10:24 AM

2004年の正月に靖国参拝したときまでは、小泉首相は中国側の反応を伺いながら右往左往していたように思えるのですが、今回は中国も国内親中派も手玉に取って、余裕で喧嘩をしているように思えます。
何故たった1年でこんなに変わってしまったんでしょう?この間の小泉首相に何があったんでしょうか?

Posted by: Baatarism | June 13, 2005 at 11:24 AM

はじめまして。ぐっちーと申しましてかんべえ先生にこちらのコメントで取り上げて頂きまして、また、コメント頂きまして有難うございました。小泉さんはその実すごい(いろいろな意味で)というのはほんとにアグリーです。ブッシュさんとの関係も皆さんがお考えのレベルより余程強く、それが余裕になって現れているのかもしれませんね。また、お邪魔させて頂きます。

Posted by: ぐっち | June 13, 2005 at 01:03 PM

>Baatarism様
昨年は大掛かりな人事がありましたから、その際に、
政府・自民党内での親中派との力関係に変化があった
のかもしれません。もちろん、これはσ(^_^;の推測で
あって証拠はありませんが。

Posted by: おおみや%NEET | June 13, 2005 at 10:17 PM

単なる「狂」というレベルではなさそうですね。
雪斎さんの「怖ぇー」に実感がこもっています。
あと、論座の論文面白かったです。私は最近、現実的な路線で、より安定感を得られたと思っています。しかし、論座のあの特集にあの結論を持っていけるところに雪斎さんの現実的な平衡感覚を感じました。

Posted by: ファガスの森 | June 13, 2005 at 11:23 PM

この記事を読んで雪斎先生同様、「怖い」と思いました。さりげなく"Good Luck!"と言えてしまうかんべえさんも怖いです。

それにしても、小泉首相が日本国の指導者でよかったと思います。海の西の向こうだったら、こちらが迷惑する。

Posted by: Hache | June 13, 2005 at 11:38 PM

> おおみや%NEETさん
僕も去年の人事との絡みは注目しています。ただ、僕は2004年正月の参拝の後、首相周辺で対中政策の再検討があって、その実行役として町村外相が就任したのかなと思っているのですが。
自民党内の親中派(大体抵抗勢力と重なりますが)は、田中真紀子が失脚するころにはすでに力を失っていたと思います。

あと、もう一つ疑問に思うことがあるのですが、小泉首相は日中関係の落としどころをどのあたりに設定してるんでしょうね?
このガチンコぶりだと、小泉首相は胡錦濤が失脚してその後に人民解放軍をバックにした対日強硬派政権(対米でも強硬姿勢でしょうが)が成立しても構わないと思ってるのかなと考えてしまいますね。

Posted by: Baatarism | June 13, 2005 at 11:54 PM

はじめまして。

>おそらくは、小泉総理は、飯島秘書官の発言を肯定することも否定することもなく「何時行くかは適切に判断する」と語り続けるのであろう。

その通りですね(笑

首相動静
http://www.nikkei.co.jp/seiji/syusyou.html
飯島勲首相秘書官が先週末の講演で、2004年11月にチリで日中首脳会談が行われる前、小泉首相が05年も靖国神社を参拝すると伝えた、と発言したことに関しては「そういう点は、適切に判断しなきゃいけないと思っている。外交問題だから」と述べるにとどめた。

Posted by: ゆき | June 14, 2005 at 12:34 AM

はじめてお便り致します。
日曜日の野田毅・加藤紘一vs岡崎久彦の討論をチラッと見ていました。
こういう2対1(田原氏らその他の人々の思想傾向から言っても…)という不利な状況の中で出演し孤軍奮闘した岡崎さんの祖国愛に頭が下がりました。
天皇陛下の御親拝の中断に関しては、岡崎さんのおっしゃるとおりで、野田・加藤両氏のいい加減さが際立ちました。でも、テレビでは分かりませんよね。「デジタル・ディバイド」に関して、新しい議論がありますが、こういう場合もインターネットは有用です。私の調べた限りでは、岡崎さんのおっしゃるとおり、三木元首相の「私的参拝」前後のごたごたが、陛下の御親拝中断の主な要因です。「A級戦犯」合祀問題はその後の問題だし、中国側の言い分であって、野田氏の不勉強ぶり一知半解が明らかになりました。
靖国神社国家護持が政治課題になった、1960~70年代、首相の靖国参拝を支持する国民は圧倒的多数だったということもネットで調べていて分かりました。中国や韓国で起きている、戦争を知らない世代の歴史の忘却と捏造という現象、日本も無縁ではないと強く思いました。
さて、サンデー・プロジェクトで最も笑ったのは、岡崎さんが高野孟さんの発言に腹が据えかねて、「マルキストの言い方」(多分そういう感じだと思いますが…)と反撃したとき、高野さんは何を勘違いしたのか、「中国はマルキストばっかりだ」という意味のことを岡崎さんに浴びせました。(笑い)
大笑いです。岡崎さんが意図的に言ったのかどうか分かりませんが、高野孟さん(この方、元総評議長の高野実さんの長男だったと記憶しています)は当時早稲田大学の日本共産党の中心的活動家で、1970年代前半の日共内部の党内抗争で「新日和見一派」として東大細胞の多くの党員と共にパージされた人なのですから。その当時、東大で「新日和見一派」粛清の先頭で力を奮ったのが現共産党志位委員長(これは友人からの情報ですが…)とのこと。少し週刊誌風になってしまいましたが、ご容赦を。
元マルキストとして何を勘違いしたのでしょうか高野さんは。痛いところを突かれたのでしょう。
笑止、笑止。笑止。(遠藤浩一さん風になってしまいましたが)
サンデー・プロジェクトでは、その後田中均外務審議官と田原さんとの対談を流しました。これもチラッと見ただけなのですが、田中さんは巷間評判は芳しくないのですが、そうでもない人かも知れないと思いました。相当考え抜いて発言していました。田原氏は、彼の話を引き出すのではなく、自分の稚拙な見解を一方的に押しつけるばかりで、十分に田中さんに喋らせなかった。その辺がこの人の限界だと思うし、賞味期限はすでに過ぎたと思うのです。
あと一、二点感想を。
靖国の世論調査です。
私は、賛成派はハードコアだと思います。慎重論は曖昧で、核がありません。40%近い人が、参拝すべきだと思っている、この人たちは揺るぎません。私も私の母のその一人ですが。私個人は終戦記念日(敗戦の日)の靖国参拝には疑問があるのですが、今年に限っては8月15日に粛々と参拝すべきだと思います。
小泉総理は輿論に本当に怖いくらい敏感な方ですね。ここに期待です。
もう一点。
岡崎先生。ブログとかやっていただけないものでしょうか。
失礼いたしました。

Posted by: さぬきうどん | June 14, 2005 at 02:41 AM

・夜回り殿
大丈夫。これから一年は、「ジーコ・ジャパン」が盛り上げてくれるでしょう。
・かんべえ殿
御意。
・Baatarism殿、おおみや殿
アジアカップ、原潜侵入、沖ノ鳥島近辺徘徊・・・。中国の「困ったちゃん」ぶりが誰の眼にも明らかになっていますから、甘い顔をする必要もなくなったということでしょう。
・ぐっち殿
トラック・バックをありがとうございます。
あとで、そちらにも参上します。
・ファガスの森殿
拙稿をお読み頂きありがとうございます。
・hache殿
結局、拙者もかんべえ殿も「同類」ということで…。
・ゆき殿
御教示、ありがとうございます。相変らずですね。あの方は…。
・さぬきうどん殿
昨日の「サンプロ」の話ですか。岡崎大使一人で三人も四人も相手にするのだから凄いものです。

Posted by: 雪斎 | June 14, 2005 at 06:44 AM

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