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May 20, 2005

日米関係と「浪花節の世界」

■ 『溜池通信』「不規則発言」欄を読んでいていて考えたことがある。日本人にとって最も波長の合う異国は、米国である。それは何故なのか。世の人々は、ハリウッド映画やメジャー・リーグの影響を指摘するし、他の人々は、「自由」の価値の共有を指摘する。かんべえ殿は、「浪花節の世界が判るのは、米国と英国だけだ」というのを持論にされておられる。雪斎は、この「浪花節の世界」の共有という点は、かなり大事だと考えている。
 因みに、日本人の浪花節の世界を表わす「ど演歌」の中で、雪斎が「いかにも…」と思うのは、都はるみと岡千秋が歌った『浪花恋 しぐれ』(作詩/たかたかし、作曲/岡千秋) である。歌詞全文は、以下の通りである。

1 芸のためなら 女房も泣かす
  それがどうした 文句があるか
  雨の横丁 法善寺
  浪花しぐれか 寄席ばやし
  今日も呼んでる 今日もよんでる
  ど阿呆 春団治

 「そりゃわいはアホや 酒もあおるし 女も泣かす
  せやかて それもこれも みん芸のためや
  今にみてみい!わいは日本一になったるんや
  日本一やで わかってるやろ お浜
  なんや そのしんき臭い顔は 酒や!酒や!
  酒買うてこい!」

2 そばに私が ついてなければ
  なにも出来ない この人やから
  泣きはしません つらくとも
  いつか中座の 華になる
  惚れた男の 惚れた男の
  でっかい夢がある

 「好きおうて一緒になった仲やない
  あんた遊びなはれ 酒も飲みなはれ
  あんたが日本一の落語家になるためやったら
  あてはどんな苦労にも耐えてみせます」

3 凍りつくよな 浮世の裏で
  耐えて花咲く 夫婦花
  これが俺らの 恋女房
  あんたわたしの 生き甲斐と
  笑うふたりに 笑うふたりに
  浪花の春がくる

  「芸のためなら 女房も泣かす それがどうした 文句があるか」というのは、多分、フェミニズム方面の人々ならば、目をむきそうな歌詞である。ただし、この雰囲気は、たとえば映画『ロッキー』にも相通じるところがあると思われる。劇中のロッキーは、女性を泣かさなかったかもしれないが、必死にボクシングに打ち込んだ。ロッキーの傍らには、不器用な恋人がいた。『ロッキー』は、第一作だけを観れば中々の出来だと雪斎は思う。
 実は、「浪花節の世界」が成立するためには、「現在の貧しさ」と「将来に実現するかもしれない夢」が揃っていることが大事である。英国も米国も、元々は「貧しかった国」である。米国が「豊かな国」になったのは、南北戦争以後の経済発展が始まった1870年代以降のことである。最初の殖民が始まってから二百数十年の歳月は、大方の米国人にとっては、「貧しさと向き合った歳月」である。しかし、その「貧しさに向き合った人々」は、理想主義的な人々であった。米国の伝統的な価値観が、自助、誠実、節制、廉直といったものであるのは、「貧しさから抜け出すためには、盗んだり他人を出し抜く」といった振る舞いに走るのを潔しとしなかった「ピューリタンの精神」が反映されていよう。
 こういう「ピューリタンの精神」と「武士道の精神」とは、実によく似ているではないか。ついでにいえば、三船敏郎とジョン・ウェインもである。
 ところで、『スター・ウォーズ』(エピソード3)の全米公開が始まったようである。劇中に登場する「ヨーダ」を観ると、雪斎は、義経に修行を付けた「天狗」にしか見えないのだが…。

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「国際情勢」カテゴリの記事

Comments

 ハハーンなるほど.浪花節がわかるのは米英と日本だけですか.かんべえ氏の指摘も面白いですねえ.私がアメリカにいたときに在米日本人が漏らした言葉を思い出しました.曰く「外国で、会ってほっとする相手は日本人以外ではアメリカ人だけだ」.私もよくにた体験をしたので、なんでかなあと、考えていました.英米人と日本人のメンタリティーの共通点については、雪斎さまの言われる現在の貧しさと将来の夢の実現という視点も面白いんですが、私が英米と日本の共通点として前から思っていることは、ちょっと突拍子もない意見に見えるでしょうけど、どちらも遠い昔、移り住んできた人達によって出来た吹き溜まり社会で、その遠い記憶が生きているんじゃあないかと思うんです.中国、ロシア、独仏みたいにドンと根を張って、ふてぶてしいのじゃあなくて、何かしら不安で、その裏返しとして変化がはげしくて、自信があるようで他人の同調を常に求めているようなメンタリティーですね.旨く言えませんけど.いずれにしても、英米人と日本人のメンタリティーに共通点があるのは、国際関係からみたら結構な話じゃあありませんか.

Posted by: M.N.生 | May 20, 2005 at 09:41 AM

雪斎どのはもう「論座」を終えられましたか。こちらはまだです。(汗)

日米両国民は「感動するところ」の勘所が似ているんですよね。映画でもスポーツでもそうですが、「ここで泣け!」というポイントがある。「ロッキー」は、愛を描いたアメリカ映画の傑作だと思います。

Posted by: かんべえ | May 20, 2005 at 09:58 AM

 執筆活動お疲れ様です。
 中国韓国との関係がギクシャクし、「付き合いづらき隣人」という印象が強まって来ている昨今、「却って遠く太平洋を隔てたアメリカ人のほうが、付き合いやすい」と漠然と思っていたところでしたので、興味深く拝見させていただきました。
 考えてみれば、「ロッキー」って本当に「アメリカ版浪花節の世界」ですね。この映画が日本で大ヒットした理由が、改めて理解できたような気がします。

Posted by: 藤田 | May 20, 2005 at 10:42 PM

・M.N 生殿
・かんべえ殿
・藤田殿
 日本人の対米「親近感」は、戦後に強引に作られたと唱える人々が、「右」の方にいるのですけれども、実態は、どうも彼らの主張とは違うような気がしますな。そうしたことの検証は、きちんとやっておく必要があると思います。

Posted by: 雪斎 | May 21, 2005 at 01:28 AM

大陸のそばの島国という点で、日本と英国とは相通ずるところがあると思います。
英国人の欧州に対する意識として、「常に欧州と共にあるが、欧州の一部ではない。」という言葉を聴いたことがありますが、日本のアジアに対する意識もそうあるべきだと思います。
「常にアジアと共にあるが、アジアの一部ではない。」という感じで。

Posted by: roomer | May 21, 2005 at 02:16 AM

『ロッキー』、私は大好きです。米国が70年代リベラリズムの挫折によって末期的に傷ついていた中、米国の原点にある価値観を再生させ、『ダーティハリー』とともに、反体制を売りにしたアメリカン・ニューシネマを終息させる役割を果たしたんですよね(実は最初はニューシネマ流のエンディングが用意されていたのが、偶然変更されたとか)。同時にそれはレーガン新保守主義の始まりでもありました。スタローンの映画を作るまでの経緯も、米国の社会事情とオーバーラップし、感動的です(だいぶ前に『映画秘宝』に町山智浩氏が素晴らしい論評を書いていました)。作品としても、人間の本源的な美しさをよく描いていたと思います。続編は、そういう秀逸なドラマとしてではなく、まったく別のカテゴリーの作品として見ればそれなりに楽しめますね(笑)。

『スターウォーズ』は黒澤へのオマージュに満ちた作品なので、日本的要素はそこかしこに発見できますね。

米国人と日本人が、他国民と比較して本来的に共通した感覚を持っているかという点については、異論があります。が、個人の見方による問題でもありますし、複雑な話になりそうなので止めておきます。また機会があればお話させて下さい。

Posted by: やじゅん | May 21, 2005 at 03:47 PM

やじゅん様があえて抑えたところを煽りたくなります。まず、日本人自身が浪花節を共有しているのかが疑問です。短い人生でしたが、これまで「お前は日本人じゃない」と言われ続けてきたサイレント・マイノリティとしては異議ありです。

だいたいwebで「赤い血が流れてますかあ?」と思うようなことを堂々と書かれているお二人が、浪花節で盛り上がること自体が微苦笑を禁じえません。やじゅん様が書かれたら、信じそうですが、雪斎先生とかんべえさんではダメです。とくにかんべえさんは、あまつさえ戦争と選挙を食い物にし、お金まで稼いでおられます。この一事をもってしても、日米夫婦善哉説の危うさが私のような門外漢にも自明です。

もっとも、Hache以外の日本人は浪花節の感覚を共有していると言われれば、反論はいたしません。私なりに分をわきまえております。

Posted by: Hache | May 21, 2005 at 11:42 PM

・roomer殿
「大陸(文明の中心)に近接しているが一部ではない」という感覚は大事なものと思います。英国はローマ帝国、日本は中華帝国jの辺境ですが、一部ではありませんでした。

・やじゅん殿
・Hache殿
 「古い奴だとお思いでしょうが、古い奴ほど新しいものを欲しがるものでございます。生まれた土地は荒れ放題。世の中、右を向いても左を見ても、真っ暗闇じゃございませんか。」
 この感覚でしょうか。

Posted by: 雪斎 | May 22, 2005 at 01:49 AM

>>雪斎先生
すみません、バカ受けしてしまいました。最も敬愛する方がまったく同じ科白をもらされるのをうかがいました。私自身は浪花節には縁の薄い人間ですが、不思議なものです。

私自身は方向音痴ですので、右に行くべきところを左に行ったりして大変です。ひどいときには他の人が横に動いているときに上下で動いたり。基本的に非常識な人間なので常識を常識として意識しないと生きてはゆけない日々を送っております。

Posted by: Hache | May 22, 2005 at 01:19 PM

曽野綾子さんの本を読んでいたら、「フランス人は肉体がいくら健全でも、健全な魂が宿るとは限らないと思っている」という言葉が出てきました。
こうした考えより、「健全な体には健全な魂が宿る」と信じて努力することに傾く愚直さを愛するのが日米なのかもしれない・・・と思いました。

Posted by: さくら | May 23, 2005 at 05:43 PM

・hache殿
「含意」をご理解頂けましたか。
・さくら殿
 英国ー『炎のランナー』
 米国ー『ロッキー』
 日本ー『巨人の星』
 拙者が影響を受けた「スポ根ドラマ」です。ところで、フランス映画に「スポ根ドラマ」って、ありましたっけ。

Posted by: 雪斎 | May 24, 2005 at 02:33 AM

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