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April 03, 2005

韓国「バランサー」論の馬鹿馬鹿しさ

 韓国紙『中央日報』(3月23日付、電子版)は、 「盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は22日、陸軍士官学校の卒業式で『これから私たちは韓半島だけでなく、北東アジアの平和と繁栄のため、“バランサー”の役割を果たしていく』とし、『今後、我々がどのような選択をするかによって、北東アジアの勢力図は変化するだろう』と述べた」と伝えた。

 盧武鉉大統領は、現在の米韓同盟の枠組を維持した上で、韓国が日米両国と中朝両国との間を「バランサー」として立ち回る姿を夢想しているらしい。しかしながら、韓国が「バランサー」として立ち回る際の前提は、韓国が単独で日米二国、あるいは中朝二国と対峙するだけの国力を手にしていることである。十九世紀、大英帝国の最盛期にあった英国は、1815年までのナポレオン戦争時にはロシアと組む形でフランスの大陸制覇を潰したけれども、1854年のクリミア戦争ではフランスと組んでロシアの地中海進出を阻んだ。 「英国には永遠の盟友もなければ、永久の仇敵もない。英国の国益が変わらず永久であり、その国益をこそ追求するのが、われわれの義務である」 (”We have no eternal allies and we have no perpetual enemies. Our interests are perpetual and eternal and those interests it is our duty to follow”. Lord Palmerston, British Foreign Secretary, 1848 )というパーマーストン卿の言葉は、「国益」と「同盟」に絡む冷厳な現実を示したものとして頻繁に言及されるけれども、忘れられてはならないのは、この卿の言葉は、大英帝国の権勢という裏付けを持った上でのものであったということである。そうした権勢の裏付けがあってこそ、英国は、自分の「国益」に基づいて「同盟」の相手を組み替えることが出来たのである。
 客観的に観れば、現在の韓国には、「単独で日米二国、あるいは中朝二国と対峙する」に足る国力はない。相手を日本だけに限ったとても、もし、フォークランド紛争の際と同様に、日本が竹島を軍事的に奪還しようとすれば、それは十分に可能なはずである。たとえば、韓国が今年になって40機を導入しようと予定しているF15戦闘機を日本は既に209機保有している。日本にとっては、竹島を奪還した上で、制空権や制海権を確保することは難しいことではないのである。だから、韓国の対日感情がどのようなものであれ、韓国が日本と正面から衝突することなど出来るはずもない。ましてや、韓国にとっては米露中三ヵ国と対峙するなどは、「正気の沙汰」とはいえまい。
 自分の「分際」を心得ない輩は、早晩、自らの身の破滅を招く。それは、個人であれ国家であれ同じことである。ウィリアム・シェイクピアの戯曲『リア王』には、「わがまま勝手に振る舞っている者は自ら懲りて学ぶより他はない」という台詞がある。今のままであれば、韓国は、自らの「生煮えのナショナリズム」の無残な帰結を「自ら懲りて学ぶ」ことになるであろう。
 今年は、福澤諭吉が『脱亜論』を書いて百二十年目である。福澤は、「我國は隣國の開明を待て共に亞細亞を興すの猶豫ある可らず、寧ろその伍を脱して西洋の文明國と進退を共にし、其支那朝鮮に接するの法も隣國なるが故にとて特別の會釋に及ばず、正に西洋人が之に接するの風に從て處分す可きのみ。惡友を親しむ者は共に惡友を免かる可らず。我は心に於て亞細亞東方の惡友を謝絶するものなり」と書いた。 前年の甲申事変は、日本と朝鮮が「開化」を進めて手を携えて西欧列強に抗うという福澤の構想を頓挫させた。雪斎は、北朝鮮情勢への対応が、大量破壊兵器拡散や人権抑圧といった「国境を越える課題」への対処を意味すればこそ、日米韓三ヵ国協調の枠組は大事であると考えてきたし、その枠組が維持される限りにおいて、韓国の立場に同情的な眼差しを向けようとしてきた。しかし、盧武鉉大統領の「バランサー」論の愚昧ぶりを前にするとき、雪斎は、甲申事変に対する大いなる失望とともに「我は心に於て亞細亞東方の惡友を謝絶するものなり」と書いた福澤の気分を共有したくなる。卑俗な言葉を使えば、雪斎は、「馬鹿が伝染する」と吐き捨てたくなる。
 雪斎の落胆を知ってか知らずか、隣の部屋では、雪斎の母親が韓流スター、イ・ビョンホン主演のドラマDVDを観ている。雪斎は、「おふくろ殿、貴方は幸せな方だ…」と思う。

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Comments

起き抜けに先生のコメントを拝読させて
いただき、寝ぼけが一気に飛んだ気分です。
言葉は悪いですが、この大統領氏の考えて
ることって、誇大妄想もいいところです
なぁ。

Posted by: おおみや%NEET | April 03, 2005 at 07:03 AM

>おおみや殿
 近衛文麿における尾崎秀実のような人物が、ノ・ムヒョンの周りにいるのではないでしょうか。あれだけ阿呆なことを言ってくれると、そう勘繰りを入れざるを得ません。

Posted by: 雪斎 | April 03, 2005 at 08:09 AM

>>おおみや様
先日はご挨拶を忘れておりました。今後ともよろしくお願い申し上げます。「誇大妄想」ならマシですが、本当にバカかもしれないので困ります。

>>雪斎先生
韓国大統領は、自分の言明が何を意味しているのかを理解できていない可能性もあると思います。韓国が「バランサー」になるというのは「日米中正三角形論」と重なります。米韓関係の悪化をあわせて考えれば、韓国がアジアの不安定要因の仲間入りをし、現状維持勢力から現状不満勢力へシフトすることを意味すると考えます。よそで書いたことで恐縮ですが、ことこの点に関しては馬は馬、鹿は鹿ということをはっきりコミットした方がよいと思います。自国の安全の基盤を自ら壊しかねない国との外交など何の意味もないと思います。

Posted by: Hache | April 03, 2005 at 11:49 AM

現在の韓国は戦後に出来た若い国のためナショナリズムを持て余している気がします。これを上手く収斂させなければならないのですが、現在の大統領にその資質があるかと問われると悲観的にならざるを得ません。これは中国にも言えることですが。このような「若い国々」と接している日本が外交で「大人の国」として上手く振舞えるかが当面の課題でしょうか。最後に宣伝をする形になって恐縮ですが、自分のブログで文明についての簡単な考察を書いてみましたが甚だ不十分なものです。文明についての考察をより深めたいので、出来れば皆さんの知恵を拝借したいと思います。よろしければ不肖の私のブログに足を運んで意見をお聞かせください。お待ちしています。

Posted by: yu_19n | April 03, 2005 at 06:18 PM

>韓国が今年になって40機を導入しようと予定しているF15戦闘機を日本は既に209機保有している<
確かにそうなんですけど、日本のF15は2世代前のものです。韓国のが最新鋭です。戦ったら負けます日本が。

Posted by: こなきじじい | April 04, 2005 at 09:13 PM

F15>
戦闘機単体の性能もさることながら、乗員の錬度、或いはAWACSなどの後方支援体制も重要なファクターです。従って戦闘は「やってみるまでは判らない」のだと思います。
#日本は空中給油、まだできないんでしたっけ?

そもそも、米国は突如ふらふらし始めた韓国に最新兵器を売却するのか。対テロ戦争への見返りに、パキスタンへF16を売ったのであり、中台のミリタリーバランスを考慮して台湾にF16を売るのです。「バランサー論」に対する米国の答えは、「F15供与の停止」の可能性はあると思います。
韓国のF15は、深刻な米韓の政治問題になるかもしれません。

Posted by: やすゆき | April 05, 2005 at 12:31 AM

韓国はF15をアメリカから無理やり買わされています。アメリカが売らないなら他から買うだけです。

Posted by: こなきじじい | April 05, 2005 at 01:26 AM

>こなきじじい殿
確かに韓国のF15導入はブッシュ政権に「買わされた」側面があります。ただし、F15導入を断念するとなると、導入の可能性があるのはフランス製ラフォール辺りになりますか。
尚、自衛隊現有のF15は、既に二度のヴァージョン・アップが行われていますので、韓国空軍が40機のF15を総て揃えたとしても、自衛隊の209機には対抗出来ません。無論、韓国空軍にはKF16も提供されていますが、これは日本とは違って完全な「ライセンス生産」ではありません。結局、肝心なとろは米国に押さえられているのが、韓国軍の現状です。韓国軍首脳は、大統領の(暴走)を止めないのでしょうか、

Posted by: 雪斎 | April 05, 2005 at 03:16 AM

よくわかりませんが、韓国がF15を買わなかった場合は、それだけ韓国の軍事力が弱まるだけじゃないでしょうか?
F15の代わりにラフォールを揃えたところでF15を買った場合より大幅な戦力UPを望めるとは到底考えれません。
盧政権は、八八艦隊の現代ヴァージョンを造りたいんだと私はにらんでおります(w

Posted by: 七誌 | April 05, 2005 at 06:34 AM

>導入の可能性があるのはフランス製ラフォール辺りになりますか。<
多分ロシアのフランカーになると思います。元々候補にあったようです。

http://sukhoi.masdf.com/cy35.html
あと、記事の内容ですが現在の韓国の状況を考えた場合、異論はありません。

Posted by: こなきじじい | April 05, 2005 at 09:53 PM

ロシア製戦闘機の韓国への配備はありえませんよ。
そもそもネジ径が違う規格で製造されているのに導入できるわけがありません。東ドイツのMig29も整備の問題で現在全てスクラップになりました。半島が統一された場合、北朝のMig29も同じ運命をたどるでしょう。
また米国に買わされたというはなしもありますが、F16を導入しているのに仏製戦闘機を導入するのも整備上考えにくいです。
日本もF15導入時にロシア製戦闘機を比較検討していますし、F2(FSX)の時もフランス、ロシア、スウェーデンの戦闘機を比較検討していますよ。

Posted by: krty | September 26, 2005 at 11:18 AM

バランサーじゃなくて、アンバランサーですよね。
不安定の原因を量産中。

融合政策とかバランサー案とか、裏を読むと、単なる欲しか見えてこないんだが。
自分の欲しか見えない国に、そもそもバランサーは名乗れませんよと。バランサーと言うからにはいろいろ責任を負うということですよ、国際的に。今の状態じゃとてもとても。

しかも、自国通貨を日本円に保証されて倒産を乗り切ったような脆弱な国力でそいつは無理ですよと。

Posted by: 通りすがり | July 16, 2006 at 01:29 AM

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