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April 23, 2005

二国関係の「呪縛」

■ 二十二日午後、『朝日新聞』は、「『過去を反省、おわび』と首相演説 村山談話を踏襲」と題して、次の記事を配信した。
 

ジャカルタを訪問中の小泉首相は22日昼(日本時間同日午後)、アジア・アフリカ会議(バンドン会議)50周年の首脳会議で演説した。植民地支配と侵略によって損害や苦痛を与えたアジア諸国などに「痛切な反省と心からのおわび」を表明するなど、95年の村山首相談話に基づく歴史認識を改めて強調。そのうえで、アジア・アフリカ地域に対し、「経済開発」「平和構築」「国際協調推進」を提言した。具体策として、防災・災害復興対策のために今後5年間で25億ドル以上を支援する考えなどを表明した。
 首相演説は、50周年の記念会合であることを念頭に、日本政府のこの地域に対する基本的な考え方や外交方針を明らかにしたもの。村山談話に基づく歴史認識については、これまで2国間会談や国会などでも表明しているが、国際会議という場を借りて改めて国際社会に向けて発信した格好だ。
 首相は演説冒頭で、バンドン会議の歩みと重ね合わせ、「50年前、アジア・アフリカ諸国の前で平和国家として国家発展に努める決意を表明した志にいささかの揺るぎもない」と主張。村山談話が触れた「植民地支配と侵略によって、多くの国々に多大の損害と苦痛を与えた」「痛切なる反省と心からのおわびの気持ち」といった表現をそのまま引用した。

 小泉演説の全文は、既に公開されているけれども、その冒頭は、次のようになっている。

議長、
御列席の皆様、
 半世紀ぶりに、アジアとアフリカの諸国が一堂に集うこの歴史的会議に出席することはこの上ない光栄であり、会議を主催頂いたインドネシア及び南アフリカの両共同議長に深甚なる謝意を表します。私は、この50年間我々を結びつけてきた強い絆を改めて実感し、我々が共に歩んできた道を振り返るとともに、21世紀においてアジアとアフリカの国々が世界の人々の安寧と繁栄のために何をなすべきか率直に議論するために、この会議に出席しました。
 50年前、バンドンに集まったアジア・アフリカ諸国の前で、我が国は、平和国家として、国家発展に努める決意を表明しましたが、現在も、この50年前の志にいささかの揺るぎもありません。
 我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受けとめ、痛切なる反省と心からのお詫びの気持ちを常に心に刻みつつ、我が国は第二次世界大戦後一貫して、経済大国になっても軍事大国にはならず、いかなる問題も、武力に依らず平和的に解決するとの立場を堅持しています。今後とも、世界の国々との信頼関係を大切にして、世界の平和と繁栄に貢献していく決意であることを、改めて表明します。

 各国は、小泉演説にどのような反応を示したのであろうか。雪斎が現時点で把握した限りでは、産経新聞速報記事が、会議議長国であるインドネシア政府の反応として、「多くの各国代表団を驚かせた。歓迎するし、深く感謝する」との声を伝えている。
 今後、各国の反応が続々と伝わってくることであろう。昨日の時点では、日本のメディアは、小泉演説が「中韓両国に配慮したものである」という趣旨で伝えている。しかし、これが「中韓両国に対する配慮」だけを目的としたものであるならば、わざわざアジア・アフリカ会議という大規模な国際会議の場で「反省とおわび」の意を表するほどのものでもない。むしろ、雪斎が注目しているのは、中国、韓国、さらにはシンガポール(華僑系の影響力が強いシンガポールでは、時折、「反日」の色彩が強くなる)における「反日」の論理が、国際社会の衆人環視の下に置かれた結果、どのような評価を受けるだろうかということである。
 少なくとも、小泉演説は、「日本が何ら過去を反省していない」といった批判の根拠を弱めることには結び付くであろう。振り返れば、中国政府は、反日デモの折に日本の在外公館の保護を徹底できなかったことによって、国際法規上、重大な疑義を残したけれども、そのこと自体は、確かに中国政府の立場を弱めるものであった。何らかの論理や感情に没入して振る舞うことによって、周囲が見えなくなってしまえば、気付いた時には周囲から失笑を向けら・れる結果を招いてしまうことがよくあるものである。恋愛という感情に憑かれた人物にとっては、「あばた」も「えくぼ」に見えるものかもしれないけれども、客観的には、「あばた」は所詮「あばた」でしかない。「あばた」は「あばた」であると指摘する「第三者の声」は、確かに必要なのである。『ワシントン・ポスト』紙(18日付)にフレッド・ハイアットが寄せた『中国の選べる記憶("China's Selective Memory")』という論稿もまた、そうした声の一つに他ならない。この論稿には、次のような記述がある。
 

Well, you might say, how a nation treats its internal history is less relevant to its qualifications for the Security Council than whether it teaches its children honestly about its wars with other nations. A dubious proposition, but no matter; as the Times found in its review of textbooks, Chinese children do not learn of their nation's invasion of Tibet (1950) or aggression against Vietnam (1979). And they are taught that Japan was defeated in World War II by Chinese Communist guerrillas; Pearl Harbor, Iwo Jima and Midway don't figure in.
"Facing up to history squarely" isn't easy for any country. Americans don't agree on how to remember the Confederacy. Russia can't yet admit to Soviet depredations in the Baltic republics. And, yes, Japan too often sees itself purely as a victim of World War II.
But in countries that permit open debate, historical interpretations can be constantly challenged, revised, maybe brought closer to the truth. In dictatorships that use history as one more tool to maintain power, there's no such hope.

 なるほど、このような論説が「超絶大国・米国」のクオリティ・ペーパーに載ったことは、中国政府を焦慮させたことであろう。中国政府が対日批判を続ければ続けるほど、「そういうお前は、どうなのだ」という声が噴き上がって来る。韓国政府に比べれば遼かに実利的な中国政府のことであるから、こうした論調が拡がることの不利益を察知したことであろう。
 小泉演説の後、中韓両国の反応が伝わって来た。中韓両国は、「言葉ではなく実行を」という点で認識させているけれども、その色調には自ずから差異がある。韓国が相変わらず嵩に掛かったような対日批判を続けているのに対して、中国は、どのような算段があるにせよ「軟化」の気配を示している。その色調の差異が、どのように展開されていくかは。今後の注目に値しよう。

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Comments

小泉演説には驚きました。相手の非を責めずに自らの非を責める。現段階で国内世論がどのように反応するのかはわかりませんが、国民の大半の合意となれば、民主主義国の強いリーダーは、独裁国家のリーダーよりもときとしてはるかに強いリーダーシップを発揮することがあると評価できると思います。かんべえさんが「国民感情を御することができるかどうかが外交力を左右することになる」と書かれていますが、小泉総理は不思議な能力をおもちのようです。

この演説が中韓向けだけではないことは雪斎先生の分析の通りだと思います。『外交』の第12章を読み返していたのですが、民主的外交というのは、他国が許容できる道徳的前提を越えてしまうと、非常に断固としたものになってしまうらしい。北朝鮮に対する強硬姿勢はなるほどと思いました。中国は二歩手前、韓国は三歩手前と評価しております。

本業がちょっと具合が悪いので暫くROMモードに移ります。

Posted by: Hache | April 23, 2005 at 04:15 PM

見る人が見れば何が起きてるかきちんと
理解できる、って訳ですな。となると、国連
本部の前で何かやらかした連中ってのは、
お笑い者扱いされてる可能性ありですな。

Posted by: おおみや%NEET | April 23, 2005 at 07:16 PM

 hache殿
 拙者の師匠は、「ほとんどの日本人は、状況が判っている」と仰っています。ゴリゴリの右翼層はともかく、多くの日本人は、「まぁ、いいんじゃないの…」と思うだけではないでしょうか。
 おおみや殿
 やはり、「周囲が見えない」というのは、外交の世界では、不味いことだと思います。

Posted by: 雪斎 | April 24, 2005 at 03:18 AM

うーん、常識的に考えて、AA会議の演説内容はデモが起きるはるか以前から固めてあったように思います。つまり、中韓のデモがなくても、あのような内容になったのではないかと。なにせバンドン会議があることは、ずっと前から分かっておったことですから。私が外務官僚であれば、「戦後60年は村山談話を上手に使っていくしかない」と考えるところです。

Posted by: かんべえ | April 24, 2005 at 10:06 AM

溜池通信を通じてこちらを知りました。メーカーでエンジニア(技術屋)をしております。国際政治については全くの素人ですが、最近の日中関係に不安を感じることが多くなりましたので、初めてコメントを書かせていただきます。

確か、第二次大戦中、日本は中国の共産党軍と対峙したときに、毛沢東は日本軍を中国の内陸部に引き込んで兵站線を延ばし、その背後を民間人と同じ姿のゲリラ兵によって攻撃したために、日本軍は泥沼の戦闘に巻き込まれて敗退したと聞いたことがあります。

今回の中国での反日デモと一部が暴徒化する姿を見ていると、このような状態に日本が巻き込まれていくのではないか心配です。

日本企業(弊社も含めて)は多額の設備投資をして中国市場に参入しています。そして、沿岸部から内陸部へとその拠点を延ばしています。

しかし、今後、中国各地で暴徒化したデモの攻撃を受けるようなことがあった場合、工場はすぐには撤収できないので、日本企業の投資が一夜にして失われるのではないか(全てを放棄しなければならなくなるのか)大変気がかりです。

そこまでに至らなくても、企業がこれまでの投資と市場を失うことを恐れて中国政府の意向に従わざるを得なくなるのではないかと危惧しています。

浅はかな素人の想像に過ぎないのであれば、私にとってはむしろありがたいのです。最近不安に思うことが多くなりましたので、おっかなびっくりですが投稿させていただきました。

Posted by: たちかわ | April 24, 2005 at 06:36 PM

たちかわさんへ
たちかわさんが危惧していることは起きるかもしれません。
こういった話も出てきてます。
http://japan.donga.com/srv/service.php3?biid=2005042016478
ほおっておくと、こんな酷い目にあいます。
http://zhenyan.cocolog-nifty.com/twlog/2005/03/post_6.html

Posted by: こなきじじい | April 25, 2005 at 07:52 AM

最近、訳あって故高坂正尭先生(私は学部は違いましたが先生の講義を、許可を得て一年聴講しました)の外交論文集を再読してるんですけど、亡くなる数年前の日中関係に関する論文を読んで考えさせられたんです.高坂先生の主旨は、第2次大戦の戦後処理が、正常な形で行われなかったことが、日中関係不正常の根本原因である.つまり、本来戦勝国(アメリカ、中国)が作る国際秩序の中に敗戦国(日本)が苦難はあるにせよ参加していくのが普通なのに、冷戦と共産中国の誕生で、戦勝国(アメリカ)と敗戦国(日本)の強固な同盟が生まれ、其の結果敗戦国が世界史に例をみない繁栄をとげたという逆説が生まれたと言うんですね.勿論、日本は直接的には冷戦には責任はないんですが、結果的に安全保障と外交を放擲してしまって、新しい国際秩序作りに無責任になった.こんなことでは、毎度中国から歴史認識云々と文句を言われ続け、最終的に偏狭なナショナリズムが出てきて、亡国の道を進むんじゃあないかって、一種のペシミズムで終わってるんです.この一ヶ月あまりの中国の反日暴動(不法を通り越して醜悪ですらあると思いますが)を、彼らの内部事情で説明したコメントが日本のマスコミに多く見うけられたんですが、勿論それもあるんですが、私はやっぱり根本は歴史だと思うんです.なにも日本の反省が足りないという意味ではなくて、(中国からみれば)負けた国が繁栄して、国連の常任理事国にもなろうかとしていることに対する怒り(ルサンチマンかもしれない)が根底にあると思うんです.だから、ある意味では解決不能と悲観的になっちゃうんですね.まあ、歴史的問題は歴史が解決するしかないいんでしょうから日本人に、ある種のふてぶてしさと、外交センスがもっともっと必要だと思います(小泉さんは結構あるという気もしますが).高坂先生もおそらくそう思われていたんじゃあないでしょうか.

Posted by: M.N.生 | April 25, 2005 at 10:14 AM

・ かんべえ殿
 この件、別にエントリーを用意します。
・ たちかわ殿
 はじめまして。
 中国産製品の「売却先」がどこかということを考えれば、あまり懸念する必要もないかなと思います。
・ こなきじじい殿
 ご教示、多謝に存じます。
・ M.N生殿
 お読みになっているのは、『高坂正堯外交評論集』でしょうか。高坂先生は、対米外交と対中外交が日本の永遠の課題であると書いておられました。論壇駆け出しの頃、亡くなる数ヶ月前の高坂先生から手紙を頂いたのが、拙者と高坂先生の唯一の接点でした。

Posted by: 雪斎 | April 27, 2005 at 01:02 AM

この部屋?の専門性にはとても間に合わぬ私ですが、よろしくお願いします。
政府の対外的な戦後処理と現状についての余るほどの意見の渦の中に今有りますが、どうしても気になっているのは、対内的な戦後処理のことなのです。
先日nhkの東京大空襲の番組をみて、なぜこの事を自分は知らなかったのだろうと愕然とした思いになりました。
東京だけでなく、全国のの都市でも類似の状況はあったでしょう。まして沖縄、広島、長崎などであった事実についてこの国の政府が進んで検証し開示したという事実について私は知りません。たぶん米国への遠慮とか経済復興に関わる配慮があったのでしょう。
そのために自国認識が事実に基づいた構築をしそこなったように思えるのです。
自らの痛みを誤魔化した人々には、他国の人々に与えた痛みを身近に感じにくくなってしまったのではないかと思えています。
同じ要素は中国、韓国にもいえるのかも?
つたないコメントで恐縮しながらですが。

Posted by: tamon | April 28, 2005 at 11:30 PM

>たちかわ殿
>はじめまして。
>中国産製品の「売却先」がどこか
>ということを考えれば、あまり懸念
>する必要もないかなと思います。

素人の質問にもかかわらず、ご回答を下さいましてありがとうございます。

その後、中国政府の対応にも変化がありますが、工場を軌道に乗せるため苦労している同僚のことを考えると、必要以上に用心深くなってしまいます。これからも日中関係については緊張感をもって見ていきたいと思っております。

雪斎様のますますのご活躍を祈っております。ありがとうございました。

Posted by: たちかわ | April 30, 2005 at 10:51 AM

・ tamon殿
 拙者の地元は、宮城・仙台です。伊達政宗公が築いた仙台城大手門が、戦前までは国宝として威容を誇っていたそうですけれども、戦時中の空襲で焼失しました。先刻、その大手門が六十数年ぶりに再建されることになったとの報道が伝わりました。拙者に言わせれば、「この六十年、何をやってたの…」という感慨です。貴殿の仰る「対内的な戦後処理」も似たようなところがあります。多くの日本人は、戦災ですら「自然災害」と同次元で捉えたようなところがあるのかもしれません。

・たちかわ殿
 中国に限らず「異国」でビジネスをするときは、どこにでもリスクはあると考えるべきではないかと思います。中国の場合、身近であるという感覚によって「リスクは少ない」と錯覚させられた側面が多分にあると思います。今回の騒動によって、日本の経済界の人々が「やはり中国にもリスクはある」と気を引き締めたのであれば、却って幸いだったかもしれません。

Posted by: 雪斎 | April 30, 2005 at 05:17 PM

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