続・「フジ・ライブドア戦争」に参陣
■ ライブドアのニッポン放送株買収に際して、実際の資金を提供したのは、リーマン・ブラザーズという外資系証券会社であったことが、至る所で伝えられるようになっている。
ところで、ニコロ・マキアヴェッリの『君主論』には、次のような誠に興味深い記述がある。
「君主が国を守る戦力には、自国軍、傭兵軍、外国支援軍、混成軍とがある。傭兵軍および外国支援軍は役に立たず、危険である。…勝ちたくないと思う人は、せいぜい外国の支援軍を利用するとよい。外国支援軍は、傭兵軍よりも危険度が高いのである。しょせん、この兵力であれば破滅は必至であろう」。
ホリエモンさんが此度の買収劇で投入した「軍隊」は、ライブドア自社資本という「自国軍」ではなく、また無数の投資家の資金という「傭兵軍」でもなく、リーマン・ブラザーズ資本といった「外国支援軍」であった。「そもそも、300億円程度しか年間売り上げのない企業が、何故、800億円もの資金を投入できるのか」という疑問から始まった雪斎のライブドア論議であったけれども、この疑問も「外国資本の手を借りた」ということで片付きそうである。
マキアヴェッリの教えてくれるところに従えば、ホリエモンさんは、「勝ちたくないと思う人が利用する外国支援軍」に手を付けたわけである。先々のことは、もはや多言を要すまい。
下掲の論稿は、昨日付『産経新聞』「正論」欄に掲載されたものである。昨日の産経新聞は、一面トップ記事、社説、そして拙「正論」欄原稿とでライブドア批判を一斉に行った。昨日段階で、ライブドア批判が政界、官界、財界に反響した。ニコロ・マキアヴェッリは、次のようにも書いている。「加害行為は一気呵成にやらなければならない」。無論、この「加害行為」が誰かの指示に基づいて行われているなどという話は、ありえないであろう。ただし、確実にいえることは、その「加害行為」を呼び込んだのは、ホリエモンさん自身に他ならなかったということである。
■ 市場論理に優先するメディアの公益性
インターネット関連企業「ライブドア」がニッポン放送株式の三五パーセントを取得し、放送事業に参入しようとしている一件は、世間の耳目を集めているようである。この一件は、情報通信を拠点にしていた企業が放送事業に乗り出す「異業種参入」の意味という観点から評されるのが、大勢のようである。
これに関連して筆者が思い浮べたのは、昨年十二月、米国IBMが自社の総てのパソコン事業を中国パソコン最大手企業たるレノボ・グループ(聯想集団)に売却すると発表した一件であった。この一件は、レノボ・グループがデル、ヒューレット・パッカードに続く世界第三位のパソコン・メーカーとして浮上するという結果によって、「中国経済の躍進」を象徴する出来事として語られた。しかし、昨月下旬、米国連邦議会下院三委員会(国際関係、軍事、中小企業)の委員長は、ジョン・スノー財務長官に宛てて、この事業計画を財務省対米外国投資委員会が詳細に調査すべきという趣旨の書簡を送付した。この書簡の中で三有力共和党下院議員が懸念を示したのは、IBMの事業計画の結果、米国の高度先端技術と法人資産が中国政府の手に渡り、米国による輸出規制の対象となっている技術が中国政府の管理の下に置かれるといった事態であった。IBMとレノボ・グループの「取引」は、「グローバリゼーション」が進展する中での「市場の論理」の観点からは何の変哲もない風景と評されるであろうけれども、安全保障の確保といった広い意味での「公益」を担う「国家の論理」からは、疑義を向けるに値するものであった。そこには、「市場の論理」と「公益(国益)」が必ずしも相容れるわけではないという余りにも平凡な事実が、示されているのである。
「ライブドア」の放送事業参入云々を考える際にも、本来ならば、この「市場の論理」と「公益」の相克に対する視点は、捨象するわけにはいかない。振り返れば、昨年、「ライブドア」がプロ野球団経営に乗り出そうとした折に問い質されたのも、その「公益性」への認識や姿勢であったはずである。とすれば、「公益性」において球団経営とは比べるべくもない程に重いメディアへの関与に際しては、「公益性」に対する「ライブドア」の認識や姿勢が一層、厳しく問われなければならないのは、至極、当然のことであろう。何故、このことが真正面から議論されないのか。
従って、堀江貴文社長以下、「ライブドア」関係の人々は、少なくとも次の一点だけは社会全体に対する最低限の責任として明確に説明しなければなるまい。それは、ニッポン放送というメディア会社の株式取得を通じてメディアの有り様に影響力を及ぼせる立場を得た上で、何をしようとするのかということである。その説明は、おそらくは、従来以上に効率的な経営を行うとか新機軸の事業を広範に展開するとかといった「経済的合理性」の観点からだけのものであってはならない。その説明は、メディアという「第四の権力」を前にして、どのように、その「影響力」と「公益性」を考えるかという「哲学」が反映されたものでなければならない。このような「メディア関与の論理や哲学」が説明されない限りは、「ライブドア」の放送事業への参入は、「市場の論理」からは納得されるものであったとしても、広く世に受け容れられるものとはならないであろう。
筆者は、私企業間の取引といった純然たる経済事象には論評を寄せる資格を持たない。ただし、広く輿論と称されるものがメディアを媒介して形成され、その結果が民主主義体制下の政治運営に相当な影響を及ぼすものである以上、筆者は政治学徒としてメディアの有り様には強い関心を持たざるを得ない。最近でも、とあるドキュメンタリー番組制作に端を発したNHK(日本放送協会)と朝日新聞の確執もまた、メディアの有り様を考える上では貴重な材料を提供した。「ライブドア」が象徴するインターネット環境の進展は、新聞、ラジオ、テレビといった既存メディアの有り様にも動揺を与えているのは、確かであるけれども、メディアがメディアとして持つ「社会の木鐸」としての「公益性」は何ら変わらない。昨今の出来事は、メディアの外に身を置く人々にもメディアの内に身を置く人々にも、「何のためのメディアか」を振り返るに充分な機会を与えているのではなかろうか。
『産経新聞』(二〇〇五年二月十八日付)「正論」欄掲載
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Comments
はじめまして。株式市場で仕事をする人間として今回のフジ・ライブドア戦争に関して意見を申し上げます。今回のフジテレビの姿勢には疑問があるからです。「公益性」が重要視されるのであれば、フジテレビはなぜ株式市場に上場しているのでしょうか。公開企業である限り、株主のために企業価値を高める義務を負っているはずです。
しかし、これまでフジテレビは企業価値を減少させてきました。無用とも思える資金調達やニッポン放送との歪んだ資本関係等がその例です。企業価値を上昇させず、株式市場のメリットだけを受けてきた企業でしょう。
雪斎さまのライブドアに対する「札束をちらつかせた・・・」という表現を借りれば、フジテレビは風俗街(株式市場)で「やらずぼったくり」を繰り返してきた女子高生(メディア)です。その女子高生が本当に買われたからといって本人や回りが「女子高生を買春するなんて」と怒るのは如何なものでしょうか。そもそも、本人のこれまでの行為を振り返って頂きたいと思います。
Posted by: ao@株式マーケット | February 19, 2005 at 01:22 PM
〉「ao@株式マーケット」殿
はじめまして。貴重なご教示を有り難うございます。此度の一件の意味を最も真摯に反省しなければならないのは、他ならぬフジ・サンケイ・グループ関係の人々だと思います。今の状況は、「二日酔いで土俵に上がった横綱」が「小兵だが素早い力士」に「猫騙し」の奇策を食らって、土が付く一歩手前までよろめいたという風情でしょうか。「そろそろ、酒も程ほどにして稽古を始めたら…」という段階に来ているのは、間違いないでしょう。
ところで、「ライブドア」の株価は、どこまで落ちるのでしょうかq。怖いものです。
Posted by: 雪斎 | February 19, 2005 at 03:22 PM
この度のライブドアの件について、少なくとも堀江氏は違法行為はしていないのだから、そんなに悪いことをしたのだろうか???と考えます。ただ、雪斎さんが言うように、買収してからどうしたいのか、というプランが未だに見えてこないのには疑問を感じずにはいられないのも事実です。
ただ、既存のメディアも、一部の仲の良い人達の所有物たる側面を持っているのも事実だと思います。
この問題が持ち上がってからというもの、ほとんど全てのメディアが一斉に、正確な情報提供伴わずに、まずは堀江氏=悪、日枝氏=善というイメージを植え付けようと動いていたように見えました。ですから、既存のメディアの報道が全て正しいという概念は捨てなければならないと思います。
今朝の某局のテレビ番組では、インターネット投票によって「ライブドアとフジテレビのどちらを応援するか」というアンケート調査を実施してました。結果は、ライブドアを66.7%が指示するとして圧勝しました。この結果を見た司会の某氏が、「これに投票するような人は、インターネットに通じているような人たちが多いから」という趣旨の発言をしたのには、非常に驚いたのと、このアンケートは、それとは逆の結果を望んで作られたものだったんだと思いました。
また現在、どのメディアからも、イラクでの自衛隊活動の全容・実態が全く報道されないのはどういうことでしょうか?たまに流されるものは、都合の良い場面ばかりになってはいないでしょうか。もし、これが情報操作であれば・・・。つまり、もしも政府が、既存の仲の良いメディアトップに働きかけ、有事に向けての情報操作という予行演習を行っているのであれば・・・。
我々一般人にとって、メディアの代表が誰かというのは大きな問題ではありません。如何に正しい情報を速く伝えてくれるかが重要なのです。もし、堀江氏がメディアの代表になって、真の報道を行うとするならば、それは世間の評価を得ることになると思います。
Posted by: エリンズフォレスト | February 19, 2005 at 08:05 PM